暁 〜小説投稿サイト〜
猫の憂鬱
第1章
―1―
[1/3]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
世谷署の鑑識から回された書類を見る菅原(すがはら)宗一(そういつ)は、調子外れの歌声を垂れ流す人物に目を向けた。
うーーーんとモーター音に重なる調子外れの歌、廊下でセグウェイを乗り回す、IQ165を持つ天才にして奇人、化学担当の長谷川(はせがわ)秀一(しゅういつ)である。
其の秀一を囲む心理担当の菅原(すがはら)時一(ときいつ)、物理担当の(たちばな)侑徒(ゆうと)。文書担当の斎藤(さいとう)八雲(やくも)は元から此のメンバーと絡む事が無く、今は鑑識から回された書類を読んでいる。其の八雲の所有する純白の猫が、秀一の走らせるセグウェイの後ろを付いて回っている。
「長谷川ぁ。」
「うぃい。」
「其れ、歌っててもええけど、世谷署の一課課長の前で絶対しなや。」
声を張り上げ宗一は云い、なんで?と八雲が聞いた。
因みに秀一が調子外れに歌っているのは、X JAPANのendless rainである。
「彼奴、エックス信者なんよ。」
「あかーん、殺されるわ。」
其れは其れで見ものではあるが、と八雲は口端を吊り上げた。
「えぇええん、どれぇえす、れぇえええっへ…ごは…」
「噎せて迄歌うなや…」
あはは、と時一は笑い、秀一の歌声に苦痛を感じる侑徒は一層に哀愁漂わせた。
テーブルに残された、済みません、と書かれた便箋を袋から出した八雲は鼻に付け、大きく胸を膨らませた。
一旦便箋から鼻を離し、又同じ動作をした。
「猫の匂いがする。大きいかも…」
嘘だろう?と宗一は一枚の写真を八雲に渡した。
縫いぐるみのような長毛種が女に抱かれている。
「ソマリ…、此ん子の匂いか。」
八雲から便箋を取った宗一は同じに鼻に付けるが、猫の匂い所か便箋の匂いさえしない。御前の鼻如何なってんだ、と聞いたら、先生ぇの鼻こそ如何なってるんですか、と返された。
八雲の臭覚も凄いが、宗一の臭覚も問題ありで、強烈な臭いでないと嗅ぎとれない状態にある。
二十年以上強烈な薬品の匂いを吸い続けていた為、鼻が麻痺を起こしている。
切れ長の少し吊り上がり気味の目が丸いレンズの向こうから楽しそうに宗一を窺っている。
八雲が大概此の目付きをするのは、好奇心を刺激された時。
頬を手の甲で向こうに押しやったが、八雲の視線も好奇心も宗一から離れる事はなかった。
心理の時一、本職は精神科医であり、其の時一曰く、八雲に存在する感情は、憤怒と好奇心だけだと云う。
そんな男の好奇心を、五十になろうとする自分で刺激するとは、一体何に反応したというのだろうか。
「なぁんで、あの署に肩入れすんのぉ?」
ニヤニヤとチャシャ猫みたく笑う八雲の肉厚な唇が動いた。
「肩入れ?何が。」
便箋をパソコンだらけの机に置き、逃げるように宗一は離れたが、自分よりも一回り大きい手に手首を掴まれた。
虎の
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ