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猫の憂鬱
序章
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上げる。
「お嬢さん?」
其の猫に手を伸ばし、猫は伸びて来た龍太郎の指先を思慮深く嗅ぐと害が無いと判ったのか喉を鳴らし乍ら指先、手首、腕と身体を龍太郎に擦り付け、終いにはすっぽり腕に収まった。
「子供位の重さだな。可愛い。」
「うわ…、猫が居んのかよ…、然もでけぇ…」
動物が嫌いな拓也は離れ、寄るなよ、と龍太郎に威嚇した。
小さな首に回る黄色い首輪、ピンクのリボンが真ん中に付いている。
「黄色が好きなのか…?」
そう思い改めて広いリビングを見渡すと、矢鱈黄色い物が目立った。
遮光カーテンとレースカーテンも黄色、ソファも黄色に近い色合い、其の前にあるテーブルの下に敷かれるラグも薄い黄色、若しやと思い寝室を覗いたら、案の定ベッドも黄色かった。
黄色で揃えられる物なら黄色で揃えてある。
旦那の趣味、では無い。
変色した其の首に回る黄色いタイが、彼女の趣味だと判る。
此処迄趣味を通す女が最後の最後に、自分の命を終わらせる物に嫌いな色、偶々目に止まった物で片付けはしないだろう。
「御主人?」
「ええ。」
「貴方が発見、通報されたんですよね?」
「そう…、出張から帰って来たら見事に死んでた…」
目元を隠す夫の指には、テーブルに置かれた物と同じ指輪が嵌っている。
四十になるかならないか、中肉中背で灰汁も花も無い顔立ち、雰囲気も何処か大人しく、尤も此の状況で溌剌とされても困るが、比較的夫は落ち着いていた。
「驚かれました?」
「そらぁ、驚きますよね。死んでるんですから。刑事さん、面白い事聞きますね。」
普通、状況とか聞くもんでしょう?と夫は苦笑う。
状況なんて聞いて如何するんだ、見たものが状況なのに。
「此の猫は?」
「娘ですよ。」
おいで、と夫は腕を猫に伸ばし、するりと猫は移動した。
「此の子が、帰ったら矢鱈鳴いてた。私、出張が多いんですが、初めてでした、帰宅した私にこんなに鳴いて来るの。何時も妻にべったりなので。抑此の子、品種的に余り鳴かないんですよ。其れが鳴いてたのも吃驚しましたね。変わった事もあるもんだな、と思って抱っこした侭リビングに入ったら、まあ見事に死んでた。」
「一見して、変わった事とかありました?例えば、家具の位置が変わった、とか、物が増えた減った、色が違う。」
「匂い。」
夫は即答した。
「匂い?…嗚呼。」
此れか、とビニールシートの上に寝る妻を見た。
「玄関開けたら生ゴミの臭いがして、内じゃ考えられない臭いだった。内の生ゴミは全部、シンクで分解されて堆肥になるから。」
「エコですね。」
「ガーデニングが趣味だからね。此の形に変える前迄は干してやってました。失敗したら酷い臭いがするんですよ。だから、こうしたんです。」
「此処、持ち家ですか?」
「持ち家も何も、此処、私の設計、建築で
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