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Holly Night
――零章――
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とするのか?
だったら、出て行ってやる。居場所が無いなら、自分で見付ける。
お前より、ずっとずっと高い位置で、御前を見下してやる…。
そう心に決めた。
決めた時から父親を利用する事だけを考え、口を利かなくなった。
父親も又医者だった。有名な精神科医だった。難易度二番手の医学部に合格した時は、笑いが止まらなかった。此の時点で父親に勝った。父親は此の大学に落ちている。合格した宗一は、父親の虚栄心を充分に満たし、後はもう、其の虚栄心を打ち砕く所迄登るだけだった。
菅原先生、と云う言葉を、父親から自分に変える為に歩き出した。
そして、父親を潰す事を考え始めた十五歳から二十年後、宗一の目的は達成された。二十年間、其の為だけに歩いて来た。後はもう、名前を大きくするだけ。父親の影を薙ぎ払う事に専念した。
正直、時一が医者に、其れも父親と同じ精神科医になると云い、なった時には恐怖した。又父親の影が付き纏うのかと、学生時代の苦労を思い出した。
何処に行っても父親の影が付き纏う、先生の息子さんですもの、と云われ続けた。
違う、違う、俺は父親と同じなんかじゃない……!
けれど其の言葉は起爆材で、益々宗一は野心を燃やした。
時一の時は、杞憂に終わった。
嗚呼、あの菅原先生の“弟さん”……。
其の言葉がどれ程嬉しかったか、そして其の言葉がどれ程時一を傷付けたか……、世代変わって、同じ事を繰り返した。
「此処のホテル、外出出来るんだが、何処か行くか?」
タブから上がり、バスローブを纏う男の背中を宗一は見た。顔と背中を同時に見る宗一は栓を抜き、鏡に映る自分を見る事無く冷蔵庫から酒を取り出した。リクライニングチェアに座り、テレビを付けた行動に男は頷き、自分の頭に巻いていたタオルで宗一の頭を拭いた。
「俺は寝るから、好きにしろ。映画見るなら静かにしろよ。帰るなら勝手に帰れ。起こすなよ。」
電話を弄る男は一切宗一を見ず、良く冷えたシャンパンを熱い身体に教えた。
「グラスに移して飲みなさいよ、行儀の悪い。」
映画を選んでいた宗一は、瓶ごと飲んだ男を横目で窘めたが、男はとっくにベッドに入っていた。
カチカチとクリック音が響き、男は電話の電源を切るとベッドに投げ捨てた。
「そっちの電話、充電しとけよ。」
「御前、ほんま勝手やな。」
「お休み。」
男の言葉に宗一は再生ボタンを押した。瞬間、作成会社の社名と共に爆音が流れ、煩い!と電話を投げ付けられた。
男が完全に寝た事を確認した宗一は着替え、白み始める空にバイクを走らせた。


*****


如何なっても知らないから。
時一は其れだけ残し、ペンを白衣に差すとエレベーターのボタンを押した。
七階迄の階数表示、ガクンとエレベーターは八階で停まった。
白い廊下、白い壁、黒い監視カメラ。ア
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