――零章――
始動
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る代わりに肉厚な唇を指で捲った。
「井上拓也。」
「嗚呼、井上か。変人だよ。」
「そら御前の部下やからな。」
変人なのは先程時一のパソコンでしっかり判った。
「働かんでもええのに、刑事になるとか、変人や。」
「なー。俺が井上なら絶対働かんけど。」
「御前、ほんま働くの嫌いやもんな。」
「働きたくない!」
なのに刑事という仕事を選んだ、矢張り此の男も変人だ。
「俺とあん時結婚してたら働かんで良かったのに。」
「だったら働いた方がマシだな。馬車馬のように働くぞ。過労死で良い。」
「どんだけ俺の事嫌いなんよ。」
井上の財産程かな。
其れは又多いな、と宗一は笑った。
「井上は、父親が大嫌いらしいんだ。」
「自分は使いたくないからばら撒く…、ま、ええ金の使い方と違う?」
「井上が気になるか?」
「まーあな。気になるっちゅうか、時一が調べよんのん。」
「嗚呼、彼奴鬱陶しいな。」
「だーいじょうぶ、さっきガツンと言うたよ。しゅぅんとなったわな。」
「頼もしい限りだな、兄上。」
「おほ、久し振りに聞いたぞぉ?兄上なんて。」
「兄上って云わんくなったか。」
「そうよぉ?偉そうに宗一とか呼びよんの。」
「へえ、一丁前じゃないか、生意気に。」
「なぁー?昔は、兄上兄上て、俺等の後ろ付いて来よったのに。」
「あの頃から鬱陶しかったが、今も鬱陶しいな。鬱陶しさに磨きが掛かった。けど良い男に育ったな。」
男の灰色の目に宗一は顔を逸らし、眉を上げた。
「そぉなぁ、御前、昔っから、時一好っきゃもんな。」
「子供だったからな。子供は例え不細工でも可愛いんだ。」
「なんや其れ、まるで時一が不細工とでも?」
「そうは云ってないだろう…」
ふーん、と宗一は男の言葉を無視し、不貞腐れた。例え半分しか血が繋がって無いとは云え、あれでも可愛い弟、兄としては良い気分では無い。
宗一と時一は腹違いの兄弟で、宗一の実母が死んだ後再婚した相手との間に時一は生まれた。干支が同じ、丁度きっかり一回り違う。
井上も父親が嫌いだと云うが、宗一も同じに父親が大嫌いだった。大好きだった母親、其の死因は自殺で、父親が殺したも同じだった。なのに一年もしない内に再婚し、あっという間に時一が生まれた。母親が自殺した理由が、継母の腹の中に時一が居るから離婚したい、そう云われたから。
此の継母が優しい人だったから良かったもの、酷い女だったら悲惨だった。元から父親に可愛がられた記憶は無いが、時一が生まれてからは一層其れを強く感じた。
父親とは何度も衝突した、其の度継母が必死になって止めてくれた。お母ちゃん殺した癖に偉そうな事云うな、と云った時には本気で殴られた。殴られる理由が判らず、又恨んだ。
母を死に追いやり、俺から母親と云う存在を奪っておいて、居場所迄取ろう
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