――零章――
始動
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何故皆、同じ事を云うのだろう。本郷という刑事も、全く同じ事を云った。
「分析してるんだよ。」
「分析?違うわ。御前は自分の世界が詰まらんから、おもろい世界に生きとる人間の世界を見とるだけや、本を読むんと同じにな。御前は秀でてなんか無い、中身の無い、詰まらん人間でしかない。」
勘違いするなよ、御前を心理で受け入れたいのは御前の心理分析能力が欲しいからじゃない、あの男の、頭が欲しいだけだ。
「俺ともう一度一緒に仕事がしたいなら、其の詰まらん人間性を、叩き直す事だな。」
閉ざされたドアー、デスクスタンドの明かりがやけに眩しく感じた。屈辱に唇を噛み締めた時一はソファに座り、何も映し出さない義眼に触れた。
完全に外界と遮断される場所だからか、電話が電波を拾わなかった。駐車場に出て漸く電話が繋がり、バイクに跨ると電話を繋げた。
相手の性格は知っている、留守番電話サービス等絶対に使わない。携帯電話何て物が普及する前は、此れでかなり往生した。
今でも変わらず、携帯電話が普及してからはずっと鳴らし続ければ何時か出る、という事を学習した。
今日は早かった、十コール以内に出たのは若しかすると初めてかも知れない。
「はい…?」
怪訝な声色、向こうが番号を知らないから取ったのかと理解し、宗一は声を出した。
詰まり今迄は、無視されて居た事になる。或いは着信拒否か。
「此の番号、登録しといて。」
凄まじい反論が間髪入れず来ると思っていた宗一は、黙った侭の相手に、一度電話を耳から離した。
繋がっている、なのに言葉が聞こえない。
「え?御前、大丈夫か?」
会いたい……
掠れた声に宗一の背中は粟立ち、足から血の気が引いた。
あかん。
あかん。
そう思うのに、マンションとは違う場所にバイクを走らせたのは何故だろう。
「何しに、来たんだよ…」
「呼んだやろ、今度ばっかは…、呼んでないとか嘘吐くなよ…」
シーツと一緒に髪を撫でたのは、愛情なのだろうか。
宗一には其れさえ判らなかった。
俺は此奴を愛してるんだろうか、手放した癖に。今更欲しいと云えるのか?
何て傲慢なのだろう、俺は。
此奴を傷付けるだけなのに、何故欲してしまうのだろう。此れこそ時一に面白可笑しく読んで貰えば良いのに。何で彼奴は、俺の世界だけは読まないのだろう。
思う事は邪推か、男の目に宗一は考えるのを止めた。
良いや、如何でも。今度は俺が傷付こう。
男の人生全てを受け入れる愛情…左手で光る表現にそう思う事にした。
*****
「井上拓也、御前の部下。」
タブの浸かる男の髪を宗一は優しく撫で、軟水で一層柔らかさを増した感触を楽しんだ。子猫の毛みたいである。
「ん?御免、聞いてなかった、何?」
肩に触れた宗一の唇を求めるように男は振り向き、キスす
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