――零章――
始動
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其処からは出られない。其処で、一ヶ月、外で過ごして貰いたい。一ヶ月、何の問題も起こさなかったら、おめでとう、退院だ。」
黙って聞いていた男は鼻で笑い、枕から背中を離すと前屈みになり笑い出した。紐の繋がれる足首を触り、足の裏を撫でた。
「問題って?息してるだけで大問題、とか云うなよ。」
「電気は取り上げる、首にGPSを埋め込む、俺と生活する、二十四時間居場所を把握される。だけど、自由に出歩いて良い。一日一回、必ず俺の居るマンションに帰って来るなら旅行もして良い。俺と一緒なら遠くに行っても良い。」
「ふうん。」
「マンションに帰って来なかった場合、埋め込んだGPS発信機から電気が流される。微弱だから安心しろ。御前は生憎サイコパスじゃない、脳波に波がある。其れが時一に送られ、御前が興奮を覚えた時、気絶する迄の電気を流す。其れが起きたら。」
「逆戻り。」
「正解。流石やな。」
「俺を誰だと思ってるんだ。」
「長谷川秀一、IQ165の超天才博士。」
男…秀一は口角を上げ、ベッドから下りると宗一に近付いた。
「俺の頭を何に使う気だ。」
「科捜研。」
「警視庁の?」
「其の、化学。化学担当に、御前を置きたい。其の試験が三月だ。」
「興味無い、って云ったら如何する。」
「ほんなら一生其処に居らはったら。悪いけどあの弟、御前出す気無いで。」
「唯一出せるのがあんた、って事か。」
宗一はニンマリ笑い、腰を上げると監視カメラを見上げた。
「大きに、帰るわ。」
「一つ聞いて良いか。」
歩こうとした宗一に秀一は声を掛け、何で俺なんだ、と聞いた。
秀一の言う通り、化学に詳しい奴なら五万と居る。けれど、危険を犯して迄も、秀一が良かった。其の、知能が欲しかった。
「御前は正常や、何処もおかしない。クレイジーと違くて、エキセントリックなんやなぁ。」
宗一は笑い、靴音を廊下に響かせた。
目眩が起きた。
「嗚呼、クソ…」
額を押さえ、目眩に抗う秀一の視界は段々と霞み始め、ベッドに倒れ込んだ。お休みなさい、と時一の声を、秀一は聞いたのだろうか。
エレベーターで降りた宗一を待ち構えていた時一はギャンギャン批難し、絶対に認めない、そんな権限貴方には無い、としつこく続けた。部屋に戻り、パソコンを見た宗一は黙ってコンセントを抜き、時一の悲鳴が上がった。
「何て事するんだ、保存して無いのに!」
「御前は独り善がりだ。」
「何?」
画面にしがみ付く時一は宗一の言葉が理解出来ず、消えた文面を唯々悔やんだ。
「此の井上拓也て男、確かにおもろいよ。でもな、勝手に見て良い世界やないわ。此の人は、判るやろ、ほんまに繊細や。繊細で、死ぬ程深い愛情持ってる、自己犠牲愛の塊や。そんな人間の世界、壊したら、あかん。死ぬで、此の人。」
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