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Holly Night
――零章――
始動
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決まってる。受かったら。」
「手の早い男だな…」
呆れる時一の声を明るい笑い声で吹き飛ばした。
「違うのん、俺四月から東京行くからぁ云うたらな?そんなん俺認めませんからあ!てすーごいのん。ほんで、三月の試験受けるて聞かんのよ。ストーカーや、彼奴。手は出してない。」
「誑かしてんだから一緒じゃん。」
「なぁにを人聞きの悪い。まるで俺が、無節操なホモみたいな言い方しおって。」
「まさに貴方は無節操なホモでしょうよ。」
え?と宗一は耳の前に手を当て、しっかり耳を塞いだ。
「何て何て?誰が格好良いて?」
「いやもう良いや。」
貴方は生き様と信念が格好良いだけで、顔は決して格好良い方では無いから、と心で続けた。云われなくとも宗一自身が一番良く知って居るが。
「で?」
「で…?」
「あんたが其の話を僕に持って来たって事は。」
時一はカルテの並ぶ棚に向かい、鍵の掛かる引き出しの取手に触れた。カツカツと爪を引き出しに当て、宗一の言葉を待った。
時一を追うように椅子を回転させた宗一はニンマリ笑い、背凭れに全体を預けた。
「此奴は、出せない…」
「出したりな、可哀想やないか。」
「出せると思うのか、あんな危険人物!」
「全てを入れ替える、ゆうたやろ。」
立ち上がった反動で椅子は揺れ、取手を握る手を掴んだ。
「出せ。」
「無理だ…。無理だ、彼は出せない!」
「俺が、決めるんだ。」
宗一の目に時一は手を離し、されるが侭白衣のポケットから鍵を奪われた。
引き出しを開けた宗一は、引き出し一杯に詰まる男の情報を取り出し、ソファの前のテーブルに乗せた。ソファに座り、全ての情報を三十分程で頭に叩き込んだ。
「電気持ち歩いとるだけやないか。」
「其れで他人に危害を加えるんだよ。そして其の状態を見て喜ぶサディスト。水槽に鼠落として、電気流して感電死させるのが趣味。社会に離して放置したら、人間でするぞ。其の内。」
「電気取り上げたら。」
「猛獣と化するよ。一度取り上げたら病室メチャクチャにしたんだ。ベッドはひっくり返すし、シーツは切り裂くし、枕と布団は中身が出てたね。壁にも穴開けた。だから彼の病室は全て絶縁体、木にしたら電気で火災を発生させたから。ドアーノブに電気仕込んで感電させるから、ドアー迄来れないように足繋いでる。」
宗一は其れだけ聞くと立ち上がり、時一を置いて部屋を出た。
「一寸、一寸本気!?」
無言の宗一に時一は言葉を投げるが届かず、エレベーターに乗り込むとボタンを顎でしゃくった。
宗一の欲する男がどれ程危険か、時一が医者となり、初めて恐怖を覚えた人物。男が他人に与え、教えるのは恐怖と苦痛。時一とて何度も電気を流された。

御前、右目に電気流してやろうか。

嗄れた声に重なる金属が擦れ合うような不愉快な笑い声。

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