第2章
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「随分と喋れるようになったな。」
雛子と名前を付けられた筆談少女は、職員の努力で、言葉を出せるようになった。元から雛子は言葉を知っており、出せる機能が無かったに過ぎない。菅原が云ったように、喋るには歯が要る。其の費用を全て拓也が出し、職員が発音の仕方を教えた。
雛子、と名前を付けたのも拓也である。
雛祭りの時着物を着せたのだが、其の姿が妙にお雛様っぽかったのだ。だから“雛子”と名付けた。
此れが不思議な偶然で、拓也が付けた名前と、出生名が一致した。課長が頼んだあの女、最後に素性が判ったのが雛子で、「井上雛子って名前だね」と、拓也が“雛子”と付けた後に報告した。
一番驚いたのは拓也で、拓也の名字も又井上である。
瓜実顔の一重の目に陶器のように真っ白な肌、絹のような漆黒の髪、硝子細工のような繊細な体躯……雛子は、拓也の実子だと云われたら納得する風貌だった。もう御前、俺の娘になるか、等と拓也は笑う。
「ダディ、ダディ。」
「其れ以外聞いた事無いけどな。」
“ダディ”と云うのは、各施設での拓也の愛称だ。拓也さん、は変だし、井上さん、も奇妙、先生、は以ての外である。一人の混血少女が拓也の事を“ダディ”と呼んだ時、其れ採用、と満場一致した。偶に職員から“パパさん”とからかわれたりもするが、子供達は一貫して“ダディ”と呼んでいる。
俺にも何か付けて、とヘンリーは云うが、誰一人として思い浮かばない。敢えて付けるとしたら“ブロンドさん”辺りだろうか。
雛子の手を引いた拓也は職員を見、七時迄に帰る、と約束した映画を見に施設を出た。
雛子は食い入るように其の映画を楽しみ、夕食と買い物を済ましてから約束通り七時前に雛子を送り届けた。御前だけ狡いぞ、と他の子供から批難されたが、雛子だから贔屓した訳では無く、全員にクジを引かせたら雛子が当たりを引いてしまっただけである。
本郷は、いい加減煙草吸いたいから帰る、と二人が映画に出掛ける時一緒に出たので居らず、残ったヘンリーと柳生がクリスマスパーティに参加した。其れが終わるのが六時。クリスマスパーティには参加するは映画は見るはでは余りに不公平だろうと、雛子へのパーティ参加は認めず、片付けを終えた施設に戻した。
サンタの格好をするヘンリーの写真を見た拓也は、此のサンタは子供じゃなくて女が来て貰いたいだろうよ、猥褻サンタ的なので、とからかった。
「又な、雛子。」
頭を撫でられた雛子は嬉しそうに片目瞑り、又な、と拓也の言葉を復唱した。
「拓也、今日来るかい?」
「いや。」
実に十時間ぶりの煙草を吸った拓也は、雲と煙を同化させた。
「自粛。」
「OK、判った。セツコさんは来るかい?」
「え?何処にです?」
ぴょこぴょことお団子を楽しそうに揺らす柳生は聞いたが、其れが酒場だという事を知り、お団子の威力を弱ら
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