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Holly Night
第2章
―4―
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歳の頃には考え付かなかった。未来等、考える時間も作る時間も無かった、其れを与えてくれたのは拓也。
「だな。」
煙草を吸っていた拓也は口元に手を置いた侭小さく笑った。
黒い身体に白い煙。其れが最初羽に見えたと云ったら拓也は笑うだろうか。
ギリギリ迄吸った煙草を地面で消し、拾うとドアーを開けた。
「又画面でな。」
「いっぱい愛送ってあげるわぁ。」
両手を出し合い、キラキラキラぁと揺らした。此の変な動きは女の別れの挨拶で、動画が終わる時何時も、又画面でね、キラキラキラぁ、と伸ばした腕を振る。女はカメラと視聴者に向かってしているので然程不思議では無いが、視聴者迄も画面に向かって此れをするので、側から見たら不審者である。
女が毎週のように動画をアップするのには訳がある。
女にとって一日は酷く長い時間であった。早く夜になりますように、早く母親が出掛けますようにと、一秒が一分、一分が十分、十分が一時間、一日の長さ等永遠に思えた。永遠は終わらない、終わらないからこそ永遠で、世の中に時間が存在しているのを知った時の衝撃。
女の世界時間で一週間は一年に値した。
週一の動画アップは其の意味がある。実際の一年に一度しか自分は拓也に会えないが、女の世界の一年であれば一週間に一度、自分は会えないが拓也は会ってくれる、其れだけで嬉しかった。
車を見送った女はギターを背負い、カメラを取り出すとレンズを進行方向に向けて起動させた。
繁華街の夜景が遠くに見え、女の周りは暗い、女の足音とアメージンググレイス、遠かった光が段々と近付く、通りには疎らに人が居る、停まるタクシー、運転手の背中と女の歌声がミスマッチ、歌い終わった女は静かにカメラを停止させた。
十二人の妖精、オーロラ姫を育てた内三人の妖精、そして十三人目の妖精…マレフィセント。
瞼を閉じた女はゆっくり息を吐き、写真でしか見た事の無い妖精の姿を浮かばせた。
拓也は漆黒…マレフィセントに仕える烏である。
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