第2章
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女の横には何時も、美しい歌があった。
五年前の今日でも。
拓也が現実を見失った、七年前の夏の日にも。
救われた、女の歌声に救われた。
少女の歌声に、拓也は人生を決めた。開いた心の空洞を、子供達で埋めた。
此の女に会わなければ、今の拓也の活動は無かった。
「ダディって未だ、支援活動してんの?」
「嗚呼。」
「ダディって変わり者だよね。」
女は笑い、星達に、五年前星になった兄弟に歌った。
星に、女の歌声に、魂が吸い込まれそうだった。
此の教会が今も尚残されるのは、此処の周辺住民と女の呼び掛けである。
死者数十二人、聖夜に起きた惨劇の魂を守ると周辺住民が取り壊し撤回の署名を集め、此の五年間、天気関係無く毎週日曜、朽ち果てた此の教会に住民と神父が集まる。そして女と一緒に賛美歌を歌う。
たった其れだけの、一時間程の時間だが、一週たりとも此の五年、無かった事は無い。
庭だった場所に植えられる樹齢五十年の見事なソメイヨシノ、此れは拓也が実家から、弔いの意を込め植え替えた。女のCDジャケットには、毎回此の木が映っている。女がカントリーシンガーソングライターとして活動を始めたのも、此の教会が関係する。
三年前に此の教会の実態がニュースの特集で組まれ、あの少女は一体なんなんだ?と、女の歌声に反響が起きた。容姿も日本とイギリスのハーフ、と云うので受けた。加えて此処が教会を改造した養護施設で、女は唯一の生き残り、何故だか判らない、テレビを見ていた過半数が十四歳の少女の姿と歌声に涙を流した。特番を組んでいた番組のキャスターやコメンテイターも呆然と映像を眺め、枠が終わっても暫く次に進めなかった。
女は拓也同様、自分が手にした金の一部を除いた全てを養護施設に寄付した。拓也の姿を見ていたからこそ、此の行動を起こしたと云って良い。
歌手になりたく歌って居た訳では無い、歌う事が唯単に好きで、今では兄弟達に向かってしか歌わない。
ライブ活動も、テレビ出演も一切しない、女は此の場とCD、動画共有サイトでしか歌わない。此れは事務所が管理する公式では無く、女個人のアカウントで、女は所謂ユーチューバーである。
再生百万回で漸く十万円と云われる世界だが、女の動画再生は平均で五百万回、週に一本上げたとして月二百万円、其れを毎月、全て養護施設に寄付している。凄まじい再生回数と金額である。
女が生み出す金を合計すると毎月五百万程だが、女は月に二十万しか貰っていない、其の送金先は拓也だ。残りは事務所が管理し、女の指示通り寄付している。事務所、と云っても、女の活動を支える者がスポンサーとなり、其の内の一人が法人にしただけのもので、全員の共同経営となる。
其れが中々に頼もしい連中で、此れも十二人だ。彼女は一般人で有名になりたい訳じゃない、と雑誌やテレビの依頼を全て断っている
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