第2章
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せた。
「お酒飲めないので…」
「アー、じゃあつまんナイだろうネ。」
じゃあ此処で解散だな、と三人は挨拶済まし、濃紺の空を見上げた拓也は車を走らせた。
一時間程車を走らせた拓也は、閑静な住宅街の中で車を停め、歩いた。
足元の見えない暗さ、住宅街にある電灯は此の敷地から一切無く、鉄門を押し開けた拓也は身体を滑り込ませた。
なだらかな傾斜、鉄門周辺にあった緑は足を進める毎に減って行き、遂に暗黒の空間が広がった。
焼け落ちた建物は何年もの間雨に晒され、所々緑が見える。白石膏で出来た其れだけが、明暗を教えた。此処にあるのは月明かりだけで、日中に此の白石膏の像を見るとかなり汚い。白石膏なのに、緑なのだ。
洗ってやれよ、と思うのだが、洗うとなったら此処迄放水車を入れなければならない、其れ程此の石膏像は高い位置にある。
然し、実行には移されない。
移せない、と云った方が正しい。其れが実行出来るなら、此の場所はこんな暗黒では無く、白亜の教会で今でもあった。
「黒は。」
其の声に拓也は見上げていた其れから視線を逸らし、声に向いた。
「悪魔の色だと、シスターは云ったわ。」
ゆっくり微笑む女に拓也は薄く笑い、オメェも真っ黒じゃん、と笑った。
「だけど私にとって黒は、何よりも尊い色なのよ。」
女はきちんと拓也の横に立つと同じにキリストを見上げた。
「一年振り。」
「此の日の為に生きてんだよ、私。」
剥き出しの汚れたキリスト像、五年前の今日、養護施設を併用した教会が火に呑まれた。原因は、蝋燭の転倒。あっという間に火は木造の教会を包み込み、就寝時間を回っていた事為、生き残ったのが此の女だけだった。
拓也を一番最初に“ダディ”と呼んだ、其の少女である。
被害の拡大は、鉄門と其処から教会迄の道にあった。
鉄門の狭さに消防車が敷地内に入れなかったのだ。状況を知った消防側は梯子車を呼び出したが、今度は其の梯子車が鉄門に迄さえ来られなかった。極め付け、敷地内に放水管が無かった。放水車からホースを極限に伸ばしても届かず、赤い悪魔は人間を嘲笑うが如く威力を増した。
其れを、十二歳だった女が呆然と見上げていた。
悪魔は、赤い。
女は確信した。
女が外に居たのは、サンタを見付ける為、だから生きていた。
サンタは、誠の悪魔よ。赤い服を着て、私の全てを奪ったのよ。
大嫌い、と女は吐き捨てる。
「CD、買ったぜ。後、i tunesで落とした。」
「ふふ、有難う。」
「世界一のファンだぜ、俺。」
女は漆黒の毛皮を揺らし乍ら朽ち果てた椅子に座り、アコースティックギターを取り出した。
初めて女の歌声を聞いたのは七年前、拓也は大学生で、女は十歳だった。
教会の庭で、何時も歌って居た。拓也がピアノを弾けば一緒に歌った。何かあると直ぐに歌った。
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