第2章
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慢出来るんだ、と本郷が感心した矢先、真由美は火が点いたみたく泣き出した。
我慢は一分も持たなかった。
絶対来ると思ったんだ、と課長は項垂れ、職員の腕の中で真由美は暴れた。其れを落とさない様にするのは至難で、だからと云って下ろせば足にしがみ付くのは見えている。
気紛れの愛情じゃない分、真由美の泣き声に課長は足が止まった。
気紛れで良いなら、毎週だろうが毎月だろうが会いに来る。そして飽きたら来なければ良いのだ。けれど違う、一年会わなかったのは、真由美の記憶に自分を植え付けたくなかったから。自分を、真由美の中で大きな存在にしたくなかったから。
会えない相手を思い続け、又思わせ続ける、そんな残酷な愛情を真由美には与えたくなかった。
時が経てば真由美の中の記憶は薄れる、今が強いだけで、構う程記憶は濃くなる。真由美が大きくなった時、ふとした拍子に、そういえばあの人誰だったのかしら、そんな思い出で良い。
其れが、子供と向き合う愛情で、培う愛情は両親だけで良い、第三者の自分が与えて良いものでは決してない。真由美が課長を思う程、真由美に愛情を与えようとする人間の弊害になる。
だから、会うのは一年に一回。来年も果たせるかは判らない。
「良い子で居ろ、そしたら、又会える。」
「あしたあうの!」
「会わない。」
「やだ!」
「我儘云うともう二度と会えんぞ。」
会わない、では無く、会えない、と言葉を選んだ課長に、柳生は感心した。
会わない、は否定である。
会えない、は状況である。
真由美は大きな涙を最後に落とすと、もっかい抱っこして、と課長に向いた。
「其れで我儘云わんならな。」
「いわない!」
「よし、おいで。」
一分程黙って真由美を抱き締め、床に下ろすと課長は其の儘出て行った。真由美は座った侭其処から動かず、廊下を眺めていた。
そんな真由美の頭を撫で、拓也は笑った。
「課長程男前じゃねぇけど、俺が相手してやるぜ。」
然し真由美は、あっちが良い、とヘンリーを指した。
嗚呼、そういう性癖なのかと拓也は納得しソファに座った。
「ダディ。」
「ん?」
振り向くと其処には雛子が居た。真っ白な歯を拓也に見せ、きちんと膝に乗った。
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