第1章・一年前
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。
「町田サトシって、あの町田サトシだろう?」
「有名人か。」
「まあな、少年課では結構有名。アッチコッチの署に名前あるぜ。で、此の署が本籍かな。」
「で?其の有名なヤンキー君の素性は?」
ホワイトボードの前にある椅子に座り、真由美を下ろしたのだがよじ登られた。
「バイク盗んで改造して、事故って放置、其の繰り返しかな。で、十八になって車に変わったってだけ。バイクはほぼ無免。何回も免停食らってるから時期が追い付いてないんだよ。」
「俺のバイク盗んだの其奴じゃないか?」
「何、課長さんも被害者?」
「盗んだのは中国人だが、其奴が盗んだ事にしとこう。腹立つから。」
「ひでぇな…」
内の大将も酷いけど、一課の大将も酷いな、と少年課刑事は一課刑事に同情した。
「若しかして、此の子、町田の娘か?でかくなったな…、一瞬判らんかった。」
「そうだが、…知ってるのか?」
真由美を見た刑事は、目元がそっくり、と云った。課長は、小動物みたいな此の目が可愛いと思って居ただけに一層落ち込んだ。
「俺、此奴の母ちゃん知ってるぞ。」
「は?」
真由美を膝に乗せた侭身を乗り出したので落ちそうになり、慌てて背中を支えた。
「すげぇ年上。三十代、かな?」
「井上。」
「へい。おい、あゆちゃん。」
「何?」
廊下から亜由美は声を出し、母ちゃんの年知ってる?と聞くと、三十代だよ、と云った。
「なあ、御前の母ちゃん何処居るんだ?」
「知らない、何時も居ないもん。」
「あの兄ちゃんが御前達の面倒見てたのか?」
「ううん。お兄ちゃんはママと一緒に来て、誰か連れてって、又戻してどっか行くの。でも、ママよりお兄ちゃんの方が良くお家に来て、まゆちゃんと遊んでたよ。お家の掃除とかもしてたし、皆にお洋服とか着せてたよ。」
亜由美の言葉に、一体何の事件が起きてんだよ、と少年課刑事は当然顔を険しくした。
課長は真由美の耳を両手で塞ぐと、児童売春と児童略取、其れに町田が絡んでる、と小声で教えた。
亜由美の云った、“誰かを連れて行く”は、ホテルか何かに少女を運ぶ事、“又戻す”は仕事が終わった事を意味した。
「御前も、ママ達に連れられて行ってたよな?」
「うん。」
「其処で…」
拓也の口は止まった。喉元に言葉が詰まり、息さえ出来なかった。
「御前、ママの事、好きか…?」
「うん。お兄ちゃんも好きだよ、優しいから。」
亜由美の大きな目は純粋で、息苦しさに息が熱くなり、目元を思わず塞いだ。
「きっついな、此の事件…」
出た本心は自分でも判らぬ程小さく、掠れていた。
小さな手が、拓也の手に触れ、指の隙間から拓也の目を見た筆談少女は膝から降りると慌ててノートに文字を走らせた。そして、両手でノートを持った。
――だいじょうぶ?――
柳生も思わず拓也の肩
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