第1章・一年前
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し、子供達の名前知ってるか?と聞かれたので、一旦引っ込み、そして、皆名前ないみたいです、とドアーを閉めた。
課長は瞼を掻き、困ったな、と唸る。
「何で御前は名前があるんだ?」
「まゆちゃんていうのよー。」
「皆がまゆちゃんって呼ぶのか?」
「そうねー。」
肉厚な唇を突き出した課長は拓也に向き、筆談少女を指した。
「何でまゆちゃんはまゆちゃんって呼ばれるんだ?誰が付けたか判るか?」
聞かれた筆談少女は“お姉ちゃん”と書き、“まゆちゃん”は最年長の“お姉ちゃん”が付けた事が判った。
「節子ぉ。」
「ああい。」
「最年長のお姉ちゃんに、何でまゆちゃんにだけまゆちゃんって付けたのか聞いて。」
「ああい。」
段々と柳生が哀れに思えて来た。
「呼び易いから、らしいです。」
「おいお姉ちゃん。」
キャスター付きの椅子をドアー迄滑らし、拓也は廊下に身体を向けた。
「他の奴等には何で付けなかった?」
「他の子には付けちゃダメってママが云ったの。」
「何で?」
「“パパ”達が好きに呼ぶからって。でもまゆちゃんはまゆちゃんだよ。真由美ちゃん。ママが付けて良いって云ったから。」
「なんでも真由美にしたんだ?」
「私が亜由美って云うの。」
課長の目が動いた。其れを木島は見逃さなかった。
「…御前、名字何?何亜由美って云うんだ?」
「如月亜由美って云うの。」
“お姉ちゃん”…亜由美の言葉を聞いた瞬間、木島と其の相方が腰を上げ、役所行ってきます、と会議室を出ようとしたが、課長は一旦止めた。
「何?」
「もう少し待て。」
拓也は言葉を続けた。
「此奴はさ、文字が書けるよな?此奴学校行ってたのか?」
「ううん、私が教えたの。話せないけどお話ししたかったから。」
「御前、学校行ってるの?」
「前迄は行ってたよ。」
「其れって何時くらい?」
「三年生迄かな、お家に教科書あるよ。」
其の言葉に課長は、鑑識から少女の持ち物を持って来いと一課の刑事に指示を出した。
「何処の学校行ってたんだ?っていうか御前、ずっと東京か?」
ローン会社曰く購入されたのは三年前前、丁度彼女が三年生の時である。
「ううん、引っ越して来たの。」
「どっから?」
「佐賀。」
「…遠いな。」
課長が一旦木島を引き止めたのは、購入者の名字と少女の名字が異なっていたから。
名義は“町田”となっている。
「令状持って、如月亜由美の戸籍取って来い。」
木島と入れ替わりに交通課の刑事が、あったあった、と書類を持って来た。あの住所での車登録があったのだ。何と言うか、馬鹿としか言い様が無い。
「イノ、最悪だぜ。…課長さん、あんた子供似合うな。」
「なんだよ。」
「御前が一ヶ月前ぶつけた車、彼奴だよ。」
「は…?」
「あのクソだせぇ改造ワゴン、
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