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Holly Night
第1章・一年前
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原の指に少女は舌を絡ませ、其の力は驚く程強く、引き抜いた菅原は手を振った。
「あー、吃驚した。蛸かと思った。」
「へえ、名器じゃん。」
「井上さん…」
「うん、判った。そういう事ね。」
歯が無い理由を理解した拓也は、菅原に向いた。
「人間て、歯が無いと喋れねぇの?」
「いえ、喋れますよ、尤も、聞き取る事は出来ませんけど。此の歯で顎を支え、歯や歯茎に舌をくっ付け反響させる事で音になります。」
「可哀想に御前、インプラントだな。」
「如何やって御飯食べてたんでしょうね。」
「固形物食べた事無いとか。」
「嗚呼、かも知れませんね、顎が発達してませんし。此れは歯を入れたら骨格が歪むかも知れませんね、今から成長するので、徐々に歯を増やせば良いでしょうが、固形物を噛むには絶対に奥歯は要るんでね、顎関節に激痛を伴うでしょうね。」
「だからって歯無しは可哀想だろうが。」
「まあねぇ。其れか、もう、顎をずらすか。整形手術でやるアレですよ。だけど、成長期前ですからねぇ…、困ったな。」
「御前、自分の年判るか?」
少女は左手を開き、右指を三本立てた。
「八歳…?」
少女は頷き、机に指を滑らせた。然し眉を落とし、辺りを見渡すと菅原の白衣に刺さるペンを指した。
「あ、筆談が出来るのね?君。」
少女は筆談の意味が判らず首を傾げたが、紙とペンでお話するんだよね?と言い直すと大きく笑顔で頷いた。
「はい、どうぞ。」
菅原のノートとペンを渡された少女はテーブルの上で丸まり、文字を書いた。そして拓也に見せた。
「おなかすいた…、御腹空いてんのか。早く言え……たら苦労しねぇな。何が食べられるんだ?」
――トロトロした しろいの――
丸っこい其の文字に拓也と菅原は喉を詰まらせ、お粥ですよ!絶対!、だよなだよなそうだよな!と顔を見合わせ、小児科医は珈琲を吹き出した。柳生だけが、何で井上さん達慌ててるんだろう、と理解出来なかった。
柳生節子二十五歳、未だ清廉潔白な身体である。
「待ってろ、作って来るから。」
頭を撫でると少女は嬉しそうに身を捩り、きゃふきゃふ、と笑った。其れを見た菅原は、赤ん坊と一緒か、と診断書に加えた。
作りに行く前、白いトロトロした食べ物、を聞いて回った。
本郷は、山芋。
木島は、練乳。
課長だけがまともな答えで、粥或いはリゾット、オートミールでも良いな。後ヨーグルトだ。
オートミール…。
其れにヒントを得た拓也は食パンを牛乳で液状にし、砂糖と卵を入れた。
フレンチトーストを液状にしたものだと考えれば良い。
ヨーグルトもあったので序でに持って来た。
液状のフレンチトースト擬きを渡すと少女は、此れ!と云わんばかりにヨーグルトを指した。
「誰だ、お粥だなんて云った奴。」
「井上さんですよ。」
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