第1章・一年前
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が父親じゃないか?と思った程だ。
今でこそ本郷の顔は吊り目だ細目だ古風だなんだと貶されるが(おまけに名も古風)、曽根川氏曰く“本郷中尉”は、歩けば婦女子が余りの男前に道端に座り込む程、だったらしい。本郷中尉が戦死したと聞けば、氏の知る所で軽く十人の婦女子が後追い自殺した…其れ程の所謂アイドルだった。
生まれて来る時代を間違えたかもしれん、と知れず思った。七十年近く前に生まれていたら、そこそこ持てたんじゃなかろうか。
軈てクリスマスだと云うのに本郷に予定は無い。尤も、三十年以上生きて参加した事等一度も無いが。
机の上を走る振動、本郷は慌てて二号機を見たが、震えたのは拓也の“二号機”だった。
ダディ、こわい。
白い背景に浮かんだ、たった其の一言に拓也は息を漏らし、煙草を咥えた。
本郷の二号機が、時代を築いた“老人”であるなら、拓也の二号機は、時代を築く“子供”である。
然し此の課、壁にデカデカと“課内禁煙”と貼ってあるのに、誰一人として守っていない。新人は貼り紙に従って最初の一ヶ月は其れこそ喫煙所に行くが、先住達が誰一人として守らず、又、律儀だな御前、と言う言葉で守らなくなる。
此の課の法律は課長であり、判事も課長だ、一課の絶対者は課長であり署長では無い。
遠慮無く煙を吐いた拓也は、背凭れに背中を預けた。
――どうした。
――ごめんね、おしごと中?
――大丈夫(だいじょうぶ)、なんかあったか?
――何もないの、でもね、すごくこわいの。
――何が怖(こわ)いんだ?施設(しせつ)の先生か?
――ううん、センセエはやさしいよ。あれ、へんかんできないよ。
――センセエ、じゃなくて せんせい(先生)な。どうした。
――一人がすっごくこわいの…ダディ…
其の最中、又メッセージ着信があった。
――ダディ、不安なの。如何して良いか判らない…、何が不安なのかも判らないの…
――落ち着け、状況を説明しろ。何があった。
――判らない…、全ての物事が私の頭の中でぐちゃぐちゃになってるの…、私は皆の何なの?しっかりしないと…
此処でさえ認められないの……?
其の少女の悲鳴に拓也の全身が逆立ち、ダイヤルを呼び出した。
「御前、何追い詰めてんだよ。」
何時に無く低い拓也の声に本郷は唇を噛んだ。
「良いか?彼奴はな、ずっと長女の立場で兄弟を虐げ、親に甘える事も知らねぇ十五歳の子供なんだ。兄弟を統率する事で唯一親から存在を認められてた子供なんだ。は…?職員が足んない?………御前マジで云ってる?だからって親と同じ事強要する訳?……いや、いやもう良い、もう良いつってんだろうが。…もう良いって。は?知るか。そらテメェ等の問題だろうが。俺は子供を優先にしてるんだ、だから援助してるんだ。確かに彼奴は其処で最年長かも知
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