第3章
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かに私を見ると湯飲みを投げ付けて来た。湯飲みは私に当たらず壁に当たったのだが…ゾッとした。
何が起きたか判らず呆然とした。所長も又、何事も無くパソコンに向いていた。
「え?」
「熱い。玉露は五十度だ。高温で煎れる馬鹿が居るか。」
此れか、ゆりかが“交換”を望んだ理由は。
此れが又陰湿な男で、他の所員が居ると笑顔で受け取り飲む、二人だと此の暴挙に出る。
「失礼致しました。」
「ふん、泣かんのか。詰まらん。」
同じ顔の癖に性格は違うんだな。
所長はそう云い、椅子から立ち上がると破片を拾った。
「私がします。」
「泣かない女に嫌がらせしても意味ねぇよ。」
如何云う意味なのだろう。
其の答えが判らず、ゆりかが治った後でも私は“ゆりか”として働いた。
事務所に来て十日程だろうか、ゆりかが事務所に来た、何故か私の服を着て。
ゆりか、大丈夫?心配で来ちゃった。
一瞬何を云われた判らなかった。
ゆりかは御前で、まどかは私だ。其れが何故逆になるのか。
「あ、まどかちゃんか。」
夏樹の問い掛けにゆりかは笑顔で頷き、益々混乱した。
何故御前が“まどか”を名乗る。
笑顔の“まどか”を見る程、私は私が判らなくなった。
若しかして、私が“ゆりか”なのか?知らない間に“ゆりか”になって居たのか?
幼い頃にリビングで感じた疎外感を全身で感じた。此処に居るのに此処に居ない、ならば私は何処に居る。私は幼少時代、家族団欒をリビングで、テレビを見ている感覚だった。
確かに私は存在するのに、私は常に“客観者”であった。
私は確かに此処に居るのに、ホームドラマを見ている感覚に陥っていた。
アメリカ辺りのホームドラマを、恰も自分の事として見ている…そんな感覚だった。
主人公は勿論ゆりかである。
「如何云う積りだよ、ゆりか。」
「だって、まどかは此れから“私”としてあの事務所で働くんだよ?其れでまどかって、おかしくない?」
「意味が判らない。俺は、御前の後釜であって、影武者じゃない。労働契約者名はゆりかであっても、実質の労働者は俺だ、良いか、俺なんだよ。給料は俺に支払われるし、雇用者側も其れを認識してる。何で御前にならなきゃならない!夏樹になんて説明するんだ、一生東条まどかを名乗るのか?別れたら良い、けど、御前も二十二だろう、弁護士になるんじゃないのか?其の時絶対ばれるぞ、自分が付き合ってたのはゆりかだって。いいや、其れだけなら良いさ、弁護士は“東条ゆりか”なんだから。弁護士になる迄の期間東京を離れたら良いだけなんだから。問題は其処じゃない、結婚を云われたら如何するんだ。え?御前は、“東条まどか”で結婚する気なのか?」
「其の時はちゃんと云う。」
「良いか、ゆりか。俺達は一卵性なんだよ、二卵性じゃない。医学でも、区別が付かないんだ。云
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