第3章
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「あそこ迄人間として卑劣な男を俺は知らん。」
仙道の口から語られる事実、和臣は黙って聞いた。
利発で口上手く、顔も利発さを漂わす狐顔の二枚目で、なのにちっとも気取った雰囲気が無い。要領が良く、悪く言えば狡賢い東条は、あっさり自分が如何進めば金と名声を手に出来るかを計算した。
其れが、暴力団だった。
幹部が犯した犯罪を構成員に、所謂“オツトメ”をさせる時でも刑期を短くさせる為弁護士は居る。五年の刑期を三年に、二年の刑期を執行猶予に、東条は大金と交換に実力を見せた。
「冬馬の父親…池上が東条の世話になったのは、冬馬が三歳の頃かな。」
夏樹の父親池上は其の頃、東条が専ら世話焼きする由岐城組の枝の構成員だった。
池上は、半グレに近い半端なチンピラでも、だからと云って本部のエリートでも無い中途半端な立場だった。
ヘマをすれば鉄砲玉、大義果たせば幹部が見える…そんな状態で池上は生活していた。
そして池上は夏樹が三歳の頃、籍を置く会の幹部の代わりに傷害で出頭した。軽く刺しただけだから執行猶予だけだ、其の言葉を信じて。
実際は、薬にも毒にもならない池上を組から追い出したいだけの芝居で、池上は此れで一年の刑務を言い渡されている。一年服役し、出所した後の池上の席は何処にもなかった。
――話が違うやないか。
出所した池上は先ずに東条の元に向かい、一年前の恨みを吐いた。
――そう、俺に云われてもなぁ。俺は先方さんの言う通りにしただけやし、え?何?御宅、若しかして執行猶予やとか云われた?敵わんなぁ、がっつり刺しといて、執行猶予は無いわ。刑期減らせて云われただけよ、俺。
そう東条は吐き捨て、池上を追い出した。
其の時二十三歳だった池上を、資本主義の闇に堕とすには充分だった。
荒れた、池上の素行は一層荒れた。粋がりたい十代の少年を連れては暴力で金を奪った。奪った金で博打をした。増えれば酒と女を買い、減れば妻に手を上げた。
何処迄行っても俺は中途半端やな。
遊戯の一つとして暴力と恐喝を繰り返す少年達を見て池上の心は荒んだ。だが、悲しいとは思わなかった。此れが自分には似合いなのだろうと、池上は自嘲するしかなかった。
「冬馬も、東条の被害者の一人なんだよ。俺は良いさ、俺には人生が出来上がってたから。けど冬馬は違う。彼奴は、人生を作る筈だったんだよ。池上も、あの事が無けりゃ、もう少しまともだったろうよ。少なくとも、組に居りゃ定期的に金は入ったんだから。」
「そうか?変わらんと思うが。」
「池上も池上なりに愛情はあったろうよ。彼奴、借金が凄いんだけど…冬馬に聞いたが、家に取り立てが来た記憶が無いって云うんだよ。あの時代だろう?ヤクザの取り立てがどんなものか…あんただって知ってるだろう。」
「まあ、な。」
今でこそ対策がなされているが、本
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