第3章
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課長が取調室に居るのも不思議な光景だよな、と真横に立つ和臣は思った。椅子に座った課長は資料を開き、何で呼ばれたか判るか?と目の前に座る六十手前の男に聞いた。
「煙草、吸いたいなら吸って良いぞ、仙道さん。」
一見人当たりの良さそうな狸顏の男、スーツの襟には弁護士バッチが付いている。
仙道、と呼ばれた男は灰皿を引き寄せ、忙しなく煙草を蒸した。
「俺の事、覚えてるよな?」
「嗚呼…」
「御前が呼ばれた理由は二つある、事実確認だ。」
「何だ…」
「東条ゆりかをストーキングしてたのは御前だな?」
仙道は視線を逸らし、カタカタと左足を揺らした。
「然も其れは愛情からの物じゃない。」
「何の事だか…」
「云えんか?なら云ってやろう。十五年前、御前は東条 行貞に、逆控訴されたな?絶対に勝てる裁判だった、なのに結果は敗訴、名誉起訴で逆に控訴され、御前は信用を無くしたと云っても良い。」
取調室に入って五分も無い、なのに灰皿は三本の吸殻が溜まる。喫煙者の和臣からしても異常な速さで、又、灰皿で屈折する煙草も矢鱈長い。
「起点を効かせ、離婚専門にしたのは当たったな。東条の所為で全てを無くしたんだろう。」
「東条は弁護士と言う名の、悪魔だ。俺達弁護士は、弱者の為に存在するんだ、だのに彼奴は、強い奴の…金持ちの味方にしかならん!」
仙道の叩き付けた手は灰皿を一度揺らし、課長に詰め寄った。然し、挑発する様に課長の顔も寄った。
「だからと云って、御前の過去の邪念を、其の娘に向ける理由にはならん。御前が憎いのは東条行貞であって、娘の東条ゆりかじゃない。」
綺麗に結ばれる仙道のタイを引き、鼻先が擦れ合う程距離を縮めた課長は、搾り出した低い声を鼓膜に送った。
「良いか、良く聞け仙道、御前は東条行貞を、弱者を権力で捩伏せる悪魔だと云ったな、じゃあ御前がした事はなんだ?正当か?云ってみろ。二十代の何も知らない娘を、貴様のエゴイスティックな私怨で追い詰めたのが違うと云えるのか?反論があるなら、如何ぞ先生、仰って。」
噛み付く獅子の目に仙道は鼻から荒く息を抜き、課長の肩を押すと座り直した。身体を横に流すと爪で机を叩き、左足は貧乏揺すりが収まっていない。
部屋が、白い。
「事実確認其の二は。」
「池上は、由岐城傘下の構成員だったか?」
「…イエスとも、ノーとも云えん。」
「東条行貞の所為で苦労強いられたのは、御前だけじゃないって、結束したか?」
「御前は相変わらず回りくどいな、もっとストレートに云って頂けないか?」
「実行犯は夏樹冬馬だな?」
仙道はゆっくり課長を見据え、喉奥で笑うと五本目の煙草を消した。
今度は根元迄きちんと吸ってある。
「違うって云ったら如何する?」
憮然とした仙道の笑み、襤褸は纏えど心は錦、逆光こそ栄光の近道、課
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