第3章
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斎藤さん、写真嫌いなんですよ。長谷川さんは、判るよ、俺程の男前、撮って良いぞ、ってスタンスなので。使えるとは思わんかったわ。意外と役立つな、彼の人。
悪びれた様子も無く橘も日本酒の入るグラスを持ち、お疲れ様です、とグラスを寄せた。
――忘れない内に。…十万は要らん、そう、あの方に云っとけ。
和臣が来た時渡されていた小型のボイスレコーダー、しっかりと受け取り鞄に入れた。
――そういや、何で課長と知り合いなんだ?
カラーコンタクトにしては、妙に複雑な色味を帯びる紫の目。
――次会ったら、教えてやるよ。
白檀の匂い、其れに和臣は目を伏せた。
「死んだのは、ゆりかの方…間違いないな?」
課長の声に、白檀の匂いが薄れ、雪子の香水の匂いがした。
「間違いない。夏樹と付き合ってたのはゆりか。まどか、と名乗ったゆりか。俺達の知る“東条まどか”は、依存性人格障害…全ての物事を、他人に決めて貰う。最初、あの事務所で働いて居たのは、本物の東条ゆりか。入れ替わりで来たのは、勿論まどか。そして、一週間で、入れ替わった。東条ゆりかとしてまどかが引き続きあの事務所で働き、入れ替わったゆりかがまどかとして夏樹の前に現れた。此処で、今回の被害者、“依存性人格障害の東条まどか”が出来上がる。」
「面倒臭い事をする。」
グラスを揺らし、濃密なワインの芳香を堪能する課長は、嗚呼そういう事か、と大きな口を真横に裂いた。
「五年前のストーカーは、事務所の所長か。」
「そういう事。」
雪子が差し出すトリュフを、口に含んだ。苦いココアパウダーが、ブランデーと絡む。
「御前達、お似合いだぞ?」
眉を上げた侭課長はグラスを傾け、レズビアンカップルだったらな、と喉奥で笑った。
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