第3章
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んな苦労して、此の地位を築いてるんです。金を持ってるんです。十代の青春を全て勉強に捧げたのだよ。」
菅原の言葉に、国家資格を持つ二人は目元を隠し、項垂れると重苦しい溜息を吐いた。
「遊びたかった、もっと遊びたかった…。医者になれば遊べる…医者になれば遊べる…十年後は明るいんだ…、そう思って居た時期、僕にもありましたよ…」
「なったはええけど…、遊ぶ暇が無い…、辛い…、何でわし弁護士なんかなったんやろ…」
「夏樹さん!?」
「ほんま、何でこんな苦労しとるんやろ…、マゾなんかな…マゾやろな…マゾとしか思えん…、如何もぉ、マゾヒストでーす。」
「弁護士で良かった事って、なんかあります?精神科医なんてなるもんじゃない。小児科にしときゃ良かった。」
「金がある位かな…、世の中銭やー、銭と女やー、わはは。そうだ、此れ見せてあげます。」
自嘲から一変、真面目な顔になった夏樹は、僕の苦労とマゾヒストリー、と云わんばかりに、鞄から小さめのノートパソコンを出した。
「此れが弁護士の登録場所です。此処に僕の番号を入れれば……」
氷が完全に溶け切ったディタフィズを画面を見た侭夏樹は吸い上げ、一瞬だけグラスを見た。
グラスを奥に押し、パソコンを乗せる。雪子は無言で新しいのと入れ替えた。
画面には登録番号と夏樹の顔写真、勤務先がある。
「ほら、出るでしょう?此れが内の所長です。格好良いでしょう!ナイスミドル!で…此れが、僕の先生かな。早く結婚すれば良いのに。」
置かれたグラス、又ストローで吸い上げた。
「資格無い奴が法律事務所で働けるもんなのか。」
「働けますよ、事務員だったら。まあ、此の事務員が、基本的に研修期間なんですけどね。先生達の雑用し乍ら後ろから付いて回るんです。ゆりかは学生でしたし付いて回る代わりに、書類整理と事務所掃除と接客、僕達忙しいんで、便利でした。無職ならもう一度やってくれないかな…」
「何で辞めたんだ?ゆりかは。」
「何で辞めたのかな…」
ストローでグラスの中身を攪拌する夏樹は、カラカラと鳴る氷の音で記憶を呼ぼうとした。
「何でだろう。ゆりかが辞めた時、釣られる様に弁護士も一人辞めたしなぁ。事務所の空気が一瞬で葬式になったな。所長とかゆりか大好きだったし、暫くショックで仕事しませんでした。もう一回戻ってくれたら所長も喜ぶんだけどなぁ。」
「え?弁護士が一人辞めた?」
「なぁんか暗い男でしたよ、五年前の事なんか覚えてないな。僕も新米で一杯一杯だったし…。あ、そうだ、思い出した。僕がゆりかとまどかを混同させた事件。」
「は?!」
酒とは有り難いもので、忘れていた記憶をポンポンと、ポップコーンの様に弾かせる。
夏樹の思い出した“混同事件”は、五年前の事務所で起こった。
風邪を引き、出勤出来なかったゆりかの代わりにまどか
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