第2章
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此の真逆の性質を持つのが井上。女と子供に優しく、犯人に対してもゆったりした口調で話す。上から云われた事にハイハイと頷き、上の命令通りに動く。だから気分屋の本郷にずっと付いていけるのだ、或いは、そんな本郷にずっと付いて来たからそんな性格になったのか。基本的に“人を嫌う”と云う事をしない。人間、どんなクズでもせめて一つは褒められる場所がある、井上は其処を大事にする。
なので、息子からもクズと罵られ、死を歓喜された夏樹の父親を褒めてみて、と先程一寸聞いた。
井上は暫く考え、流石の井上でも保護出来ないか!?とワクワクしたのだが、子供に手を上げてねぇから上等だ、と言い切った。
夏樹の父親は、母親に手を挙げる事はあっても夏樹自身が手を挙げられた事は無い。そう考えると、クズはクズなりにクズ程の愛情があったのかな?とも思う。
和臣が最も嫌う犯罪が強姦であれば、井上の最も嫌う犯罪は子供への虐待だった。特に修学以下の幼児虐待になると人が変わる。酒でとろんとした濁った目が釣り上がり、普段全くと云って良い程感情を見せない井上が感情を爆発させる。
一度、母親の彼氏…如何にもな事件の時、理性が完全に消えた井上が、犯人の顔面に煙草を押し付けた事があった。其の場に居た本郷も、別室で見ていた和臣も、一瞬何が起きたのか判らず、一番に理解出来て居なかったのは煙草を押し付けられた男だった。一秒の、途轍も無く長い沈黙の一秒の後、男は椅子から転げ落ちのたうち回り、悲鳴を撒き散らした。
呆然と、眺める事しか出来なかった。
本郷に押さえられる犯人を見て、井上は、いひ、いひひ、と笑って居た。そして、判った?と、濁った黒目と長い髪を揺らした。
其れだけでも気分悪い和臣だったが、真横…同じに見ていた課長迄も引き付け起こした様に笑い出し、良いぞ井上もっとやれ、俺が許す、そんなクズに人権は無い、と煽った。
当然上に報告され、三ヶ月の減給、二ヶ月謹慎を井上は食らった。抑に、そんな卑劣な事をする男を保護する団体も人間も居ない、居たら居たで見ものだが。ニュースにならないだけマシだった。
そんな男に対しても、何か一つ良い所、を聞いてみた、答えは、女を垂らしこむ能力、だった。
加納は取り調べをしない。と云うのも、所轄で取り扱う犯人の頭脳は程度が知れている。高度頭脳を持つ犯人が居た場合、其れはこんな所轄で取り合える程生易しい犯罪では無い。詰まり、所轄で賄える犯罪の犯人の知能と、加納の知能が釣り合い切れず、犯人が加納の言葉を理解出来ないのだ。
そう難しい言葉でも何でも無いのだが、天才の言葉を凡人が理解出来ない。そして、最近の言葉使いを加納が理解出来ないのだ。
流行り言葉、とでも言うのだろうか、変に略したり、意味を履き違え言葉を使ったり、兎に角言葉が乱暴であったり、加納の知能にも限界があるのだ。
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