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歪んだ愛
第2章
―8―
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世の何よりも本が好きな和臣に、誰が好きかと聞いたら即答で“夏目漱石”と答える程心酔して居た。
斎藤の名前で真っ先に反応したのは他でも無い和臣だった。
斎藤の“八雲”と云う名前、聞いた瞬間思い浮かんだ人物が居る。
小泉八雲、というギリシャ人の作家で、日本民俗学者。和臣はそう認識する。其の彼の大学での後任を任されたのが夏目漱石だ。
と云うのも、小泉八雲と夏目漱石、関係が余り宜しく無いのだ。確執…と云うのだろうか、小泉八雲が年期で大学を去る事になった時、後任に夏目漱石、此れに先ず小泉八雲が「なんであんな変人が後任なの…?」と夏目漱石の奇行を知る為云った。小泉八雲は学生からかなり慕われ、そんな学生達が彼を大学に残そうと抗議と云うか、デモをした。夏目漱石自身も、良く良く自分の性格を知るから、「あの先生の後で果たして俺が通用するのか…」と伝家の宝刀…神経症を持ち出し、結果は知るどころ、夏目漱石の不安は的中し、神経症と胃潰瘍を悪化させたのだ。
此れが所謂“小泉八雲と夏目漱石の因縁”だ。
そんななので、斎藤の“八雲”と云うのに和臣は反応した。
小泉八雲が嫌いな訳では無い。和臣の読書中毒は母親の遺伝で、其の母親の一番好きな作家が小泉八雲な為、何方かと云うと好きである。
「斎藤さんの八雲って珍しい名前、若しかして小泉八雲から来てる?」
顎で猫の柔らかさと温かさを楽しむ斎藤は破顔する。
“八雲”と云う名と云い“猫”と云い、此れで本職考古学者では無く民俗学者だったらまんまでは無いか。
「そう!小泉八雲!嬉しい!気付いてくれたん!?」
「やっぱり。八雲とか珍しい名前だと思ったんだよ。普通は考え付かない。」
「ほんならさ、木島さん。わい、兄貴居てんねんけど、其の名前当ててみて。因みにわいの八雲、“八百万ノ神”からも来とる。」
八雲、八百万ノ神、に深く繋がる“雲”が付く名前。寧ろ、斎藤の“八雲”という名前は、兄が此の名前だったから。
思考を巡らす和臣は、はっと顔を上げた。
「出雲。」
猫に向けられる斎藤の視線が和臣を捉えた。
「八雲立つ出雲…、小泉八雲が和名を付ける時に決めた冗句。八百万ノ神…詰まり、出雲大社。」
「一寸木島さん凄い…ほんま凄い!吃驚した。…いやほんま…」
寧ろ凄過ぎて怖い、と数歩離れた。其の斎藤の姿に、斎藤が警戒しよる…、と菅原が驚いた。
滅多な事では斎藤、警戒も臆病も動揺も見せないのだ。爆弾が落ちて来ても、なんか落ちたな、位の、真後ろで大規模な交通事故が起きても、なんかでっかい音したぁ、で終わる。実際斎藤、駐車場で車に跳ねられた時、あ、なんか当たった、と思ったらしい。幸い、車も鈍かったので大事には至らなかったが、漸く自分の身に何が起こったのか把握した斎藤はドライバーに向かい、何で轢くねん!痛いやないか!と“憤慨”した。
因み
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