第2章
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夏樹の勤務する法律事務所の近くの喫茶店で和臣達は待っていた。高いビルが立ち並ぶ此処では、幾ら事務所のある窓にデカデカと法律事務所であると明記しても、上を見ない限り判らない。上を向いて歩く等、余程暇な奴しか居ない。
そんな法律事務所の窓を眺め乍ら珈琲を飲んでいると、濃紺のスーツ姿の夏樹が、少し息を乱し現れた。
「お待たせしてしまって、いや、弁護士失格ですね、約束の時間に遅れるとは…」
苦笑い乍ら夏樹はメニューも見ずに珈琲と頼み、置かれた水を一口飲んだ。
「此方こそお時間頂きまして。」
加納の上品な口元にカップが添えられ、感情の無い言葉を繋ぐ。
白々しい動作が此処迄似合うのも珍しい、伊達に能面晒してないなと思う。
「忙しいか?先生。」
「ぼろ儲けですよ。あはは。寝る暇無い程です。」
商業ビルが立ち並ぶ飲食店は、稼働率が命だ。味よりも如何に早く客に商品を提供し、稼働させるかが重点になる。
個人経営の喫茶店でも変わりは無く、個人経営特有のゆったりした時間を提供し様ものなら、店は立ち所に潰れる。
だから珈琲も、客が頼む毎に豆を曳き、ドリップし…という事をして居たら、一時間も無い昼食時間を持つ商社マンやOLには受けが悪く、彼処は珈琲一つ出すにも十分掛かる、と潰れる。
空気が入り過ぎた珈琲、酸化。詰まり、五人分位を纏めてドリップし、保温し、食後の珈琲で纏めて出す。昼時となったら五人分等あっと言う間に消費されるだろうが、商社ビル相手に安さを競う飲食店が乱雑する場所で、ピラフとスパゲッティ八百円、サンドウィッチ七百円は、OL位にしか受けないだろう。
証拠に、新人OLらしき女客しか居ない。
新人OLと云うのは、あの飲食店の混雑に慄き、又、大学時代の意識が抜けない。熟年OLになれば、男達と混ざり、ワンコインの定食屋やラーメン屋にでも、寧ろ「此処が一番」と自ら新人サラリーマンを引率して入る。そうでないOLは、休憩室で弁当やコンビニで買った物を広げて居る。
こういう、個人経営でも、軽食は冷凍を使い、珈琲は作り置きしておく様な店は、勝手が判らない新人OL相手で回って居る。
加納が紅茶を頼んだ時も一瞬嫌な顔をし、和臣や夏樹が頼んだ珈琲は一分もせず出たのを見ると、そうとしか考えられない。
珈琲には余り関心の無い和臣、我が人生(一日)珈琲で始まり珈琲で終わる、と断言する程珈琲に煩い課長が此れを飲んだら……血の雨が降るかも知れない。
余談だが課長、珈琲を楽しむ為だけに朝一時間設けて居る。人より一時間起床が早いのだ。
唯、其れだけ愛情を注いでいるのだから、コンビニ等で売っているドリップパックを淹れさせても味が違う。同じ物なのか!?と、衝撃を受ける。余りの違いに、課長専用珈琲を飲んだのかと思った程。夜勤で課長専用の珈琲を飲んだ時は、余りの違いに目が覚めた程。
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