第2章
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職同然の博打狂で、何時も飲み屋の女を脇に抱え、母親自身もホステスなので、相当に蔑視されて居た。授業参観の度、息子乍ら肩身狭い思いする母に胸が痛んだ。
でも夏樹は、そんな母を嫌いにはなれなかった。
クラスメイトの母親達は、確かに金にも地位にも脅かされる事は無かっただろうが、夏樹は断言出来る。
御前等のおかんより、わいのおかんの方が何十倍も綺麗で愛情ある世界一のおかんや、と。
御世辞にもクラスメイトの母親は美人とは云えない。此れは夏樹の母親が十七で夏樹を産んだのにも関係する。
現在三十一歳の夏樹が小学生の頃の平均初産年齢は二十五歳前後。下手すれば三十かも知れない。
そんな中で、例えば夏樹が十歳だとすると、夏樹の母親は二十七で、クラスメイトの母親達は三十五、四十前後の母親も居たかも知れない。未だ未だ二十代の夏樹の母親は、どんな母親よりも若く、美しく、肉体の老化等見せる筈が無かった。女子は、老い、贅肉だらけの身体を恥とも思わず生きる己の母親を見ている為、素直に“同性としての羨望”で夏樹の母親を羨み、男子は普通に“本能”として夏樹の母親を羨んだ。
池上の母ちゃん綺麗よなぁ、……夏樹の荒んだ自尊心を慰めて呉れる唯一の言葉で救いだった。
御前等の家はバブル時に買うた庭付きの一戸建てで親父は毎月きちんと決まった額を家に入れてるかも知らん、御前の他に兄弟養う余裕あるかも判らん、俺の家は大家からも同情される二畳二間のぼっろいアパートで親父は無職の屑かも知らん、俺以外無理やて堕したかも知らん、其の親父は他所でガキ拵えとるのにな…。けどな、俺は御前等より劣ってるなんて一個も思わへん、御前等を羨望したりなんかせん。御前等の家行って、一度でも御前の母親が俺に笑い掛けて呉れた事あるか?
御前等がするのは、俺等を侮蔑し、嘲笑し、同情するだけ…下に見るだけ。そんな人間より、クズの父親に対しても悪口一つ云わない母親の方が良い。
人を悪く云うな…其れは必ず自分に戻って来るし、酷い言葉は自分の心を同時に醜くする…顔は心の鏡、結果、表情が醜くなる。そんな人間は、誰からも愛されない。だから決して、人を貶すなと教えられた。
「あはは、判る判る。……此処だけの話な、俺もマザコンなんだよ。」
横で聞いていた加納は、軽蔑の目で和臣を見、其の目は和臣が結婚“出来ない”理由を射抜いていた。
「ですよね、男って皆マザコンですよね。」
「そうそう。良いんだよマザコンで。」
「僕なんか救えないですよ…」
「先生の母親は、聖母だもんなぁ。そう居ないだろう。」
自己犠牲が病的に強い女は…。
和臣の言葉に、夏樹は挑発的な視線を向けた。
軽やかな音色、ジャケットの内側に視線を流した夏樹は電話を見、ディスプレイに表示される名前に舌打ちし、拒否ボタンを押すと又ジャケットに収めた。
又響く。
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