第2章
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考えられなかった。
親子は、例え養子に出しても親子だったのだから。
「慰謝料無しの離婚が成立し、旧姓に戻った一ヶ月後、母は自殺しました。池上の名前で絶対に死にたくなかった、死んでからもあんな男と一緒おりたない、…母は、池上家の墓に入りたくないが為だけに離婚したんです。そして、母の命…僕を守る為に捧げた二十六年の時間の値段は、一億でした。母の人生殆どを、一億で清算されたんです。」
誰も彼もが他人に興味を持たない、都会特有の雑踏、滲んで見えるのが当然だと、夏樹は思った。
五年前も、騒然とする景色が歪んで見え、笑って居た様思う。
――御前が、御前が殺したんやないか!帰れや!今更何しに来てん!
――誰に口聞いてんねん!だぁれの御蔭で!其の洒落たべべの襟に金ぴかのバッチ付けられとると思てんのじゃ!弁護士先生になれたんじゃ!
――おかんの御蔭じゃ!間違っても御前ちゃうわ!抑此れは喪服じゃ!バッチ付いてないわ!見てみぃ!酒の飲み過ぎで見えんか!?あ?大体、御前がする事言うたら、酒飲んで博打売って女買うて…おかん殴る事だっきゃないか!拵えられんのは借金とクソと頭悪そうなガキだけやないか!…帰って呉れ、ほんま…、何がしたいねん、なあ。香典か?香典が欲しんか…?んならなんぼでもやるわ…、全部持ってき晒せや!ほんで帰って呉れ!二度とわしの前に現れんなや!御前が 去ったら良かったんや…御前が、御前が…、何で御前が生きてんねん!相手が違うやないか!何でおかんが死ぬねん!
――冬馬、冬馬落ち着けや。済まん、御義兄さん、帰って呉れんかな。正直わし等も、御宅の顔、見たないねん…、姉貴の苦痛、思い出すんや…
――御前が死んだらええねん!早よ死ね、帰りに轢かれて死ね!今日やないなら明日死ね!
――香典差し上げますよって、此れで、此れで全部です!全部で二百三十万あります!此れで、もう、姉やんに関わらんで下さい、お願いします、お願いします…、帰って下さい…、帰って…下さい…お願いします…
――早よ帰れや…、一寸でもおかんに愛情あるんやったら、さっさっと帰って呉れ……
珈琲に映る忌まわしい記憶、五年前の悪夢を、未だ見ている気分だった。
手帳にペンを走らせていた加納は首を傾げ、あの、と聞いた。
「池上、とは。」
「嗚呼、僕の夏樹と言う姓は母のですよ。あの父親の名前だと何かと面倒で。と云うか、嫌ですし。離婚成立して書類出す時、僕も一緒に新しい戸籍作ったんですよ、成人でしたので。」
其処で夏樹は、父親の話をする時とは別人の顔付きで綻んだ。
見逃さなかった和臣は聞いた。
「如何した、なんか楽しい思い出でも思い出したか?」
「いや、まじまじと母の名前を見た時に、気付いたんですよね。晴香、って名前なんです、母。で、あれ?お母ちゃん、秋が足らん、て言うたったんで
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