第2章
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時代、母に云うたんです、お母ちゃん、僕と一緒逃げ様や、って。けれど母は泣きそうな顔で、こう云いよったんですわ。お母ちゃんが今逃げたら、一体誰が冬馬の弁護士なるぅゆう夢叶えんねん、お母ちゃん一人で、あんたの未来は、よぅ背負えんわな、見てんか、お母ちゃん背中、ちっこいやろぉ、あんた無駄にでかいねん、昔みたく背負えんわなぁ……」
深く、珈琲よりも濃い過去を映す水面を揺らす程夏樹は肩で息をし、冷淡な視線を横に流した。
心が、痛い。
夏樹の母親の愛情が和臣には痛かった。自分の母親を思い出した。
人は、余程の聖人か、変な宗教に嵌って居ない限り、一生消えない 蟠り(傷)と愛情を持ち、一生を生きる。
結婚して居ても、心の奥底か何処かに忘れられない相手が居るのは確かだ。
和臣は思う、此の先何時か結婚し子供が出来、孫や或いは曽孫が出来、墓に入る迄膨大な時間があろうと、決して初恋の人を忘れる事は無いと。
雑踏を睨む夏樹の目は、其の何方も抱えて居た、和臣が、“無差別”に強姦魔を敵視し、一生分の愛情を心に残す様に。
掠れた声、和臣に、夏樹を直視出来る度胸は無かった。直視するには、余りにも純粋で、穢れが無かった。憎悪、殺意、嫌悪…そして有り余る愛情が混ざる色を…赤く膨れ上がる夏樹の目元を加納は凝視した。
「何度も、殺してたろ思た…。実際、頭ん中で、何回も殺したわ。或る時は毒殺で、或る時は絞殺、滅多刺しにもしたわ。耳も鼻も唇も削ぎ落として、眼球くり抜いて、内臓引き摺り出して、町内回ったりもしたわ。詰まらん妄想で口角が上がったわ。此の屑が居てへん世界、薔薇色やろなて。けど違った。」
屑は何処迄も屑だった。
屑は所詮、屑で生まれ、屑として生き、屑になる。灰も残らない程の、屑でしか無い。
何が肉親だ、世界一厄介な代物は血の繋がりで、特に日本に於ける“血縁者”の、クソとしか言い様の無い“民族意識”“純血至上”の強さ。混血が色眼鏡を以ってして見られるのが其れだ。
最近は徐々に法も判事も意識変わりつつあるが、本の一昔前の日本は、御前達何世紀昔に生きてるんだ?と聞きたい程、“血”の繋がりを一番に濃く尊重する意識があった。此の島国、致し方無い事ではあるが、随分と“レトロ”過ぎる。古い、“如何にも”な民族意識を持つ輩に多い。
親が、特に母親が子に絶対な愛情を持つ等、時代錯も甚だしい。我が子に愛情持たぬ母親或いは父親が居ても当然なのに、世間は絶対に認めない。言ったら最後「だったら何故産んだの」そう言われて終わる。
本の少し前迄は、養子縁組をした相互間にしか戸籍除籍を認め無かったが、虐待や余り良いとは思えない親子関係(最近の言葉で云うなら所謂“毒親”)に対し、“実子の血縁者”でもあるに関わらず、裁判所が認定すれば親子関係を真っ新に出来る世界になって居る。
一昔前では
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