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歪んだ愛
第2章
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ワインを嗜む男は、矢張り舌が肥えている。
ワインも珈琲も、空気が大敵である。
一方で加納の愛飲する紅茶は、如何に空気を含ますか、発酵させるかが重点になる。ミルクティーしか飲まない加納に紅茶を淹れてやろうと、ダージリンをミルクティーにした所、汚物を見る目で見られた。
ダージリンとは其の芳香、色、渋みを楽しむもので、ミルクを混ぜる物では決して無いと、ミルクティーに最適なのは、甘い舌触りを持つアッサムだと云われた。
珈琲も紅茶も、此の手の玄人に掛かると和臣は苛々してしまう。何でも一緒ではないかと。ドリップパックを電気ポット其の侭じゃこーと湯を入れても課長から「珈琲は処女の様に扱え」と嫌味云われ、ティーパック其の侭“マグカップ”に湯に付けても加納から「冷たいカップに入れるとは…温度が緩くなる」と嫌味云われる。
紅茶は高温で葉を広がせ芳香と渋みを出す物、珈琲は高温だと灰汁しか出ない代物……緑茶は六十度の低温、紅茶は百度の高温、珈琲は、中間の八十度……要らん知識ばかり増えて行く。
夏樹は、珈琲に拘り持たない和臣が“不味い”と思える珈琲を平然と飲む。ドリップパックは疎か、インスタント或いは缶珈琲でも問題無い様な味覚で飲む。…課長に、史上最低の缶珈琲を飲ませた時の機嫌の悪さを思い出し、少し憂鬱になった。
最近ではコンビニも、一回一回豆を曳く電動ドリップ型式を導入する店舗が増え、課長の機嫌を一番とする和臣、課には有難い風潮がある。
和臣が課長を相棒にして居た新任の頃は、夜間の張り込みの時往生した。缶珈琲でも与え様なら殴られ、張り込み現場から離れた喫茶店或いは署迄珈琲を淹れに行った。課長の事を良く知る喫茶店マスターは、和臣が夜中現れる度何も云わず大量の珈琲をタンブラーに入れ、昼間でも「By my boss」の一言で全てが繋がった。
俺の主人の命令だと云えば、課長好みの珈琲が手に出来る。ちょろっと失敬した事あるが、良い匂いだった。
「夏樹さんの専門ってなんだ?」
「内の事務所は離婚です。人の不幸で笑ろてます。そんな、殺人案件を扱う事務所で儲かってたら不安でしょう?其れこそ眠れないですよ。木島さんも、其の時が来たら如何ぞ僕の電話を鳴らして下さい。勉強させて貰いますよ。」
「あはは、先ず結婚して来るよ。そして二年位経ったら、先生に連絡しよう。相手探してくれ。」
「あ、独身なんですか。」
「一人が何かと便利でね。」
「判ります、僕も独身派です。…ほら、見てるじゃないですか、現実を。あれをねぇ見たら、結婚は考えられないなぁ。」
「昔は、結婚してた方が出世に有利だったけど、最近の三四十代のエリート共は独身が多いから、下に結婚を勧めないんだよ。自分達が結婚しないで出世出来てるから。俺も出世する積もりもないしなぁ。そら、此の年で阿保やらかしたら…判らんけど。」
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