第2章
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時一から呼び出し受けた筈なのに、研究所に居るのは橘だけだった。和臣と加納に気付いた橘は振り向き、ヘッドホンを肩に掛けた。目の前にあるパソコン画面には音声周波数が波の様に打っている。
「何か。」
「時一先生は…?」
「あ、もうそんな時間か。」
腕に回る時計を見た橘は電話を取り出し、素早く文字を打つと又画面に向いた。
数年前迄は開閉式の…所謂ガラケーを使っていた筈なのに、橘のメールを打つ仕草は酷く懐かしく映った。時たま、何かの機会に前に使用していた電話を弄る事あるが、如何やって操作するのか…反応しない画面に無意識に触れた時はゾッとした。
こうして人間は、機械に操作されるのだなと痛感した。
“侑徒ちゃん、メールですよぉ”
何処からとも無く湧き出た菅原の声に和臣は振り向き、加納も又姿を探した。
「十分程で戻るそうです。」
其れだけ云うと橘はヘッドホンを肩から完全に外し、席を立った。無言で二人をすり抜け、研究所を出ると隣にある部屋に入った。此方は硝子のドアーで、中には自販機がある。其の前に楕円形のテーブルがあり、橘は椅子では無くテーブルに腰掛けた。
「何?」
「あ、喫煙所か、此処。」
橘の口角下がる唇に挟まった煙草を見た和臣は同じに中に入り、椅子に座った。精魂尽き果てたボクサーの様に項垂れる橘はぐるぐると首を回し、天井に向いて呻いた。
「きっつい…、寝たい…、頭痛い…」
忙しなく短い間隔で煙を出し入れした橘は消す事もせず灰皿に煙草を置いただけで喫煙所から出た。
「木島さんは?」
「おる。」
廊下から響いた良く通る時一の声に和臣は、半分だけ吸った煙草を消そうとしたが、橘と入れ替わる様に時一が入った。
肉厚な唇に煙草を捩込む時一は、火を点ける前に廊下に顔を出した。
「橘、一時間寝てな。先生、後二時間は戻んないから。」
「大きに、そうさせて貰いますわ…」
聞いている此方が疲労を覚える橘の声、大きな目を剥き、ライターを探す時一の煙草に和臣は火を点けた。
「なぁんで僕のライター、直ぐ家出するんだろう。」
「無くなっても良いって思ってるからじゃないですか?俺も使い捨ての時しょっ中無くしてましたから。」
「いやぁ、どんなライターでも僕無くすんだよねぇ。十万分は無くしてるだろうな。」
「あはは。」
時一の嘆きに笑った所で、又エレベーターの開閉音がした。
「…あ、あれ斎藤さんか。髪解いてるから誰か判んなかった。」
癖なのか、緩くウェーブを掛けているのか、肩甲骨迄伸びる長い髪が横顔を隠しているので判らなかった。肘迄捲り上げる白衣から伸びる手首にはシュシュが掛かっており、其れを歩き乍ら外すと一瞬で髪を結んだ。そんな斎藤の動きを、足元から見上げる純白の猫、丸い口元がヒクヒク動き、笑っているみたいだった。
「斎藤さんの猫か…」
「斎
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