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歪んだ愛
第2章
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人は煩かった。
カップが割れた事に怒って居るのでは無く、幼稚な思考と和を乱す二人の態度に怒って居た。菅原の雷が落ちた瞬間、条件反射で二人は床にへばり付いた。そうして、十分以上此の状態――と、物理担当が教えて呉れた。
「もう煩い。木島さん来はったから終い。」
「先生ぇ!わい、此れでも考古学者!復元が仕事ですわな!せやから、カップ直しますわ!」
「あっそ、大きにな。」
云って丸眼鏡は破片を拾い集め、和臣を見る事無く休憩室の真向いにある作業室に入った。何もする事の無くなった秀一は、和臣と話す準備をする菅原を正座した侭見る事しか出来ず、其れを物理担当が、哀れむ目で見ていた。
「何見てるんだよ。」
「床、拭かはったら?」
「御前が拭けば。」
「何で。俺一個も関係無いですよ。」
底意地の悪さと云おうか、物理担当の歪な笑顔に秀一は白衣を脱ぎ、黒い模様を描く白い床に置いた。
「ほら此処も、散ってるわな。」
立った侭足先を飛沫飛ぶ机に向け、此処此処と指摘する。
「俺のデスク、汚さんと。何時も云うてる。」
「…悪かったよ!」
拭き終わった秀一は立ち上がり、珈琲に汚れた白衣をゴミ箱に叩き付けた。
「御満足頂けましたでしょうか、侑徒(ゆうと)様!」
身長は秀一の方が十センチばかし高いのに、明らかに物理担当に見下されている感じが否めない。鬱々とした垂れ目が、蛙を睨み付ける蛇の様な目を窺う。物理担当は何も云わず、自分のデスクに座るとカチン、カチンとニュートンボールを動かした。其の横には林檎がある。三つあるパソコンの画面には物理の法則を用いったスウィッチ動画が流れている。其の画面の動きを、此れ、一番最初来た時にも気になってはいたが、純白の猫が青い眼で追う。時折小さな手で画面を叩く。
「お待ちどう、木島さん。」
菅原の声に和臣は物理担当から目を離し、其れを秀一に指摘された。
「見過ぎだろう、和臣。」
「ピタゴラ装置…、後猫…。何で猫が居るんだ…」
決して物理担当の男を見ていた訳では無いと弁解した。
だって、男じゃないか…
そら女であれば弁解しない。素直に見ていたと云えるが、相手は男。振り向いた顔に和臣は顔を逸らし、菅原の後を追った。ケラケラと秀一は笑い、鞄から新しい白衣を取り出した。
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