暁 〜小説投稿サイト〜
歪んだ愛
第1章
―3―
[1/3]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
獣の唸り声が聞こえる。此処は何時から妖怪を飼育する様になったのか、猫は飼育する筈なのだが、と発生源に菅原(すがはら)宗一(そういつ)は足を向けた。
パソコンが三台並ぶ机に突っ伏し、半開きの口から涎垂らし寝る男の椅子を菅原は蹴飛ばした。びくりと飛び起き、ずれた黒縁眼鏡を整えた男は忍び寄る怒りのオーラに顔を向けた。
「…此れは此れは、主任…」
「妖怪を解剖した事無いんだ、して良いか?」
「起きます…」
大きく背伸びをした男は其の侭グラグラと揺れ、薄目でにまにま笑うとガクンと後ろに倒れた。
「寝るなー!」
此の椅子じゃなきゃ嫌だと男の注文でリクライニング式の物にしたが、レバー式で無いので背凭れに力を掛けると身体を伸ばす事が出来る。
身体にフィットした椅子の心地良さに男の眠気は深く迄落ちた。
「もーう、あかん。絶対起きひん…」
男を起こす事を完全に諦めた菅原は自分のデスクに戻り、遺体写真を眺め昼食の再開をした。
聞こえる呻き声、両腕を宙に浮かせ何かを求める様に動かす男の口からは、そうじゃない、此の薬物で此の反応は絶対にあり得ないんだ、良いか此の茸はな触れただけで皮膚反応が出る劇物なんだぞ、何故って俺は天才だから…、馬鹿其れは澱粉だろうが…、俺は茄子を持って来いって云ったんだ……。
丁度麻婆茄子を食べて居た菅原は、半開きの口に茄子を押し込み、口を動かした男は、此れズッキーニじゃん、と口を閉じた。


*****


フロアーに井上の咆哮が轟いた。
「俺がそっちが良かった、俺がそっちが良かった、俺がそっちが良かった!」
東条まどかの自宅報告を聞いて居た井上は、報告する和臣の声を遮り、肩甲骨迄伸びる髪を鷲掴み、机に頭を打ち付け乍ら喚いた。
「東条まどかに瓜二つの清楚女!?俺もそっちが良かった、良かった!」
「煩い!」
「そらあんたは良いさ!可愛い女と話せたんだから!俺なんかドドリアだぜ!?」
机から頭を離した井上は落ち着かせ様と背中を撫でる本郷に抱き着き、此れって贔屓だよな、と喚いた。
「贔屓か如何かは判らんが、アレは強烈だった…」
東条まどかの勤務先に出向いた本郷達を待ち構えて居たのは、ザ・お局様と云わんばかりのハイミスだった。四十手前らしいが未だ独身で、此の歳迄来たら妥協したくないのよね、と売れ残り女の常套句を平然と並べ、一体御前の何処にそんな値打ちがあるんだ、見た目ドドリアのハイミスの癖に、と普段女に全くと云って良い程関心抱かない本郷に殺意を抱かせた。東条まどかの美貌と若さに嫉妬し、出る情報は悪意ばかり、自分の話ばかりで此方が聞いて漸く嫉妬だらけの情報を出す。

――東条まどかの勤務態度は如何でした?
――嗚呼、云われた事しかしないで、自分の仕事終わったら男と話してたわ。其れでキャリア組の人達ってのは。

[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ