第16話 ありがとう
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姉さんの事を自分から話すのは初めてかもしれない。
「姉さんが、言ってたんです。自分の背中には、守るべき大切な人たちがいるって。
「それって、きっとそういう事なんだと思います。
「上手く説明はできないけど、マリンさんも自分の持つその守りたいっていう信念に従って動いたんだって。」
こんな状況で良い言葉をひねり出せるほど、俺は頭が宜しくない。ただ、俺の出せる精一杯の言葉で、彼女に俺の信念を伝えるしかないのだ。
「だから、貴方がマリンさんの幻影に縛られる必要なんて、どこにもないんですよ。」
びくりと、イングリット先輩が反応し立ち上がった。その顔は怒り、と言うよりも困惑といった感情が現れていた。
「秩序を守るのは、マリンさんみたいな人を作らないため。7位にこだわるのはマリンさんの最後の順位だから。ですよね?」
「……お前に、何が……!」
「わかりませんよ。だから、これは俺の勝手な言い分です。」
これ以上、この人に傷ついて欲しくないから、俺は告げる。
「これは、人伝いに聞いたことなんで、本当かどうかは判断できかねますけど。
マリンさんは、戦いたくない人には逃げろって言ったそうです。」
彼女の顔が、今度は驚愕に染まる。どうやら、本当に知らなかったようだ。
「そんな……なら、私は、私は何のために……??」
そうなるのも仕方ないだろう。自分の今までのしてきたことを全てが無駄だと知ってしまったのだから。
俺は彼女の信念を叩き壊した。普通なら、ここで放り出すのかもしれない。
だが俺は違う。
そんな、無責任なことだけは絶対にしない。この人に道を示すなんて、偉そうなことは出来ない。ただ、この人が砕けないように、方向を、それだけを作りたい。それだけだ。
「自分のためでしょう。そんなのは。」
程の良い台詞などではしない。ただただ、簡単で、拙すぎる台詞だ。
「あなたがマリーさんの意思を継ぎたかったのも、その為に強くなったのも、結局は自分のためなんですよ。」
でも伝えなければならない。壊すだけ壊して、はいさよなら、などと言うことは絶対にしてはいけないのだ。
「だから、あなたの力は自分の物です。あなたが強くありたいと願ったから、ここにいるんです。」
支える言葉は、端的でもいい。それでも、声に出す。
「全部無駄、なんて思わないでください。」
イングリットSIDE
その言葉に、イングリットは目を見開いた。親友であるマリーの真意を知り、失意の底に落ちていた自分を救った彼の言葉に。口下手で、拙い言葉でも、今の彼女には強く強く響き、染み渡る。
「出ろ。期間は終わりだ。次はないぞ。」
その短い言葉とともに、扉が開かれる。
「それじゃ、お先に失礼しますね
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