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Lirica(リリカ)
歌劇――あるいは破滅への神話
―2―
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先、片開きの扉の向こうから聞こえてくる。
「婚礼の日、狩猟神リデルの星がアネーの星の裏側へとお隠れになる事でございます」
 ウラルタは歩いて行き、扉に耳をつけた。
「リデルの守護なき日に婚礼を行えば、災厄は必定でございます」
「必ずか」
「必ずや」
 ノブを回し、細く戸を開いた。
「……エキドナ公のご意向を(ないがしろ)にするわけにはいかん」
 部屋は一面に衣服が吊されており、暗かった。
 男と女の会話は続いた。暗がりの中、様々な衣服やドレスをかき分けて、声の源へと急ぐ。声の主たちがウラルタの気配に気付く様子はなかった。
「……エシカは我が一人娘」吊された衣服の海は、終わることを知らない。声も聞き取りづらくなる。「……とあらば、当家の行く末はどうなる、星占よ」
「ああ、領主様。私には答える事ができません! 星占は、地上において多くの生死を揺るがすほどの地勢と権力の趨勢を占うものにございますゆえ」
「ならば、当家の趨勢を占えぬとの言、当家の権力と我輩への侮辱であると受け止めてよいのだな」
 太鼓が激しく打ち鳴らされた。
「星占をとらえよ!」
 厚いドレスの壁にぐいっと腕を差しこむと、その手が不意に空を掴んだ。
 かき分けたドレスのその先に、矢の雨が見えた。草原で、豪奢な馬車に降る矢の雨。ウラルタは目を瞠る。たちまち草原も、馬車も矢も消えた。
 半野外の劇場の、屋根に覆われた観客席に、ウラルタは立っていた。石の舞台には雪と氷が張っており、冴え冴えと冷たい。
 沈黙が、客席の木のベンチから立ち上り、石の通路からも立ち上り、通路に取り付けられた真っ黒い燭台からも立ち上った。立ち上って舞台に押し寄せ、舞台はその圧迫を受けながら、ひたすら沈黙を吸いこんでいた。
 人を見つけたのは、たじろぎ、引き返そうとした時だった。
 雪の中から女が立ち上がった。
「星占は、いつでも利用され、利用され」
 舞台を降りる。
「気に入らなければ殺される……」
 女は舞台の背面にそり立つ、氷柱に覆われた壁の裏側へ消えて行った。
「待って」
 声をあげた。返事はなかった。ウラルタは足を滑らさぬよう用心しながら、階段状の通路を降りた。女の後を追うが、雪の上に女の足跡はなかった。舞台の背後を覗きこむ。
 そこに本物の世界があった。少なくとも本物らしく見える世界が。
 剣が飾られた暖炉で、赤々と火が燃え盛っている。部屋には毛足の長い絨毯が敷かれ、重厚なテーブルと椅子がある。
 領主は不機嫌に座っている。紅茶が温かく香るのに、夜を映す大きな窓は美しく磨かれているのに、不機嫌に座っている。隣では奥方が、顔を手で覆っている。部屋はこんなに明るいのに、指でそんなに宝石が輝くのに。
 領主は紅茶のカップに手を伸ばした。その指が震えているので、彼は不
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