第百九十六話 二匹の虎その一
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第百九十六話 二匹の虎
武田の攻めは夜も続いていた、赤い具足と旗は闇夜の中でも目立つ。
織田の軍勢はその彼等に鉄砲を放ち弓矢も長槍も使って攻めさせない、しかし武田は幾度も突っ込んで来る。
その攻防が続く、真夜中になっても同じだった。
家康はその中でだ、己の家臣達に言った。
「これまでわしも多く戦をしてきたが」
「その中でもですな」
「この戦は」
「はじめてじゃ、ただ兵が多いだけではない」
「ここまで長く続くとは」
「ありませぬな」
「うむ、まさにはじめてじゃ」
ここまでの戦はというのだ。
「強い、しかもな」
「退きませんな」
「戦も上手ですし」
「武田はあの時よりも強くなっておる」
三方ヶ原の時よりもというのだ。
「さらにな」
「ですな、まことに」
「采配はあの時よりも上です」
「これだけ攻めても然程兵は減っておりませぬし」
「主な将は死んでおりませぬ」
このことも見ての言葉だ。
「二十四将の誰も」
「そして真田幸村も十勇士も」
「誰一人としてです」
「死んでおりませぬ」
「そうじゃな、そのうえで戦っておる」
それで、というのだ。
「この様な戦ははじめてじゃ」
「我等だけならば」
ここで言ったのは石川だった。
「おそらくは」
「敗れたな」
「到底戦えるものではありませぬ」
武田に、というのだ。
「兵の数だけでなく」
「その強さでもな」
「相手が強過ぎます」
「全くじゃ、勝てる相手ではない」
家康も認めるのだった、このことを。
そしてだ、彼はここでこうも言った。
「吉法師殿、織田家だからこそじゃ」
「武田と戦えるのですな」
「そして天下を治められるのじゃ」
信長、そして織田家だからこそというのだ。
「武田とあそこまで戦えるからな」
「天下一の兵、そして将帥を揃えた家と」
「織田家もまた然りじゃ」
「織田は兵は」
「一人一人は強くない、しかしじゃ」
「鉄砲があり、ですな」
「弓矢に長槍を揃えていてじゃ」
それにというのだ。
「具足もよい、だからな」
「織田の兵も強い」
「そうなりますか」
「それに百姓とは違う」
織田家では百姓は百姓として働いている、そして武士は武士だ。そこは完全に分けられているのである。
「半農半武ですな」
「それで、ですな」
「兵は弱くともな」
「そうしたもので戦うからですか」
「天下の兵じゃ」
そうなるというのだ。
「弱き兵でも戦えるということじゃな」
「そして数もあり」
「将帥も違う」
他の家と比べてもだ、無論徳川家と比べてもである。
「だからな」
「武田ともですな」
「戦える、我等と違ってな」
「そうなりますか」
「
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