第三十七話 川の中での戦いその八
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「それを言っておこう」
「幻は目をくらますもの」
「他の感覚に対してはどうだ」
「普通はね」
ここで薊の声はこう言った、既にその姿は霧の中に消えてしまっている。少なくとも目には全く見えなくなっている。
しかしだ、その中にいてもだ。怪人は言うのだった。
「感じる、はっきりとな」
「私が何処にいるかを」
「鼻は目よりも役に立つ」
狼のそれはというのだ。
「遥かにな」
「そうね、だからね」
「わしのこの鼻をか」
「それにも幻を見てもらうわ」
楽しげな声でだ、菫は言った。
「是非ね」
「鼻にも幻をかけるのか」
「これまで私の力は目だけを見せたものよ」
それは、というのだ。
「けれど私達の力は成長するのよ」
「幻もまた、か」
「目をくらませるだけでなく」
「耳や鼻もか」
「五感全てをくらませられる様になったのよ」
それが菫の力だというのだ。
「だからね」
「それでか」
「貴方の鼻もくらませてみせるわ」
「その様なことが出来ればな」
それならと言う怪人だった。
「褒めてやろう」
「言ったわね、では褒めてもらうわ」
売り言葉に買い言葉の様にだ、怪人は返してだった。そして。
怪人は匂いを嗅いだ、それははっきりと菫の居場所を教えていた。怪人はそちらに顔を向けて攻撃に移ろうとしたが。
しかしだ、ここでだった。
怪人は目を顰めさせてだ、こう言った。
「まさか」
「そのまさかよ」
「わしの鼻が利かん」
そうなったというのだ。
「そうなった」
「これが私の力なのよ」
「幻の力か」
「耳も鼻もくらませるわ」
そして他の感覚もだ、まさに五感全てを。
「何もかもを」
「そうか、では褒めなければな」
「今がその言葉なのね」
「そうだ、しかし」
「鼻を防いでも」
「最後の感覚はどうだ」
「第六感ね」
その最後の感覚は何か、菫はすぐに察した。
「それはどうかというのね」
「そうだ、どうだ」
「勘はどうか」
「獣の勘までくらませられるか」
狼は五感をくらまされたその中でも言うのだった。
「如何に貴様の幻といえど」
「そうね」
こう言ってだ、そしてだった。
菫は怪人にだ、こう言った。
「それはわからないわ、けれど」
「けれどか」
「私にその勘を向かわせられるかしら」
「勘だけで貴様を倒せる」
「どうかしら、それは」
「言うものだな、では今からそれを見せよう」
「ええ、来るといいわ」
菫は怪人を挑発する様にして怪人に言ってみせた、そのうえで霧の中で身構えてそのうえでだった。その姿を。
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