第二部 文化祭
第59話
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一瞬、その場が凍りついた。
アスナがか細い声で、捻り出すように訊ねる。
「いない……って、どういう意味ですか」
「そのままの意味よ。ウィーンの音楽学校への転入手続きはもう済んでるの。この学校に桜さんの籍はないし、もうここへ来ることもないんじゃないかしら」
「そ、そんな……!」
「さあ、そろそろ教室に戻りなさい。授業に遅れるわよ」
アスナの表情が、いっそう不安の色にまみれていく。俺は一歩前に出ると、彼女に任せっきりにしていた口をようやく開いた。
「いつ日本を発つんですか」
「ええと……あっ、今日だわ。今から2時間後」
「は、はぁ!?」
愕然とした。
私立アインクラッド学園は、どこの空港へ向かうにしても最低30分はかかる。それなのに、授業は残り2時間ある。
──間に合わない。
何故。どうして。一方的に言いたいことだけ言って、返事も聞かずに1人で遠くへ行くなよ。
「いつ日本へ帰ってくるのかも分からないわ。もしかしたら、一生帰ってこないかもしれないわね」
「一生……って事は、もう会えないかもしれないの……?」
アスナの声は掠れていた。はしばみ色の瞳が放つ光は弱々しく揺れていて、泣きそうな顔で口を押さえる。
「……キリトくん、どうしよう……」
正直、俺にもわからない。だって、どうしようもないじゃないか。
「先生……あの、桜さんの連絡先……とか……」
「それは私も知らないわ、結城さん。っていうか、知ってても仕事上教えられないし。あなたこそ、桜さんのメールアドレスとか知らないの?」
「……知らないです」
「でも、桜さんとの関係をこれっきりにはしたくないのよね?」
「はい」
「けど、連絡の取りようがない」
「…………」
「なら、今会いに行かなくちゃね」
「でも、時間が」
「急げばどうにかなるかもしれないわよ。考えてたって仕方ないし、会いたいなら会いに行けばいい。あなた達は、授業の1つや2つ休んだって咎められやしない生徒なんだから」
いやそんなこと教師が言うなよ、と全力でツッコミを入れたくなるこの発言。この先生は今、真剣に俺達生徒と向き合ってくれているのだということがわかった。
「……先生」
「なにかしら、桐ヶ谷君」
「まりあの生徒手帳は、もう回収してしまいましたか?」
「いいえ。うちの学校は、生徒でなくなった後も手帳は渡しっ放しで──桐ヶ谷君、あなたもしかして」
にこりと先生に笑みを向け、俺はアスナの右手を引っ掴んだ。アスナがきょとんと小首を傾げる。
「き、キリト君?」
「すみません先生、次の授業は休みます」
「はいはい。教科担当の先生には、最愛
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