暁 〜小説投稿サイト〜
ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──
OVA
~恋慕と慈愛の声楽曲~
Salty Day
[5/5]
[8]
前話
[9]
前
最初
[1]
後書き
[2]
次話
肌に張り付く白衣と緋袴が異常に鬱陶しい。
ぜッ、ぜひゅッ、とイヌ科動物のような喘息を肩で吐き出しながら、カグラは両手を丈の低い草地につける。さわさわ、という感触が手のひらを伝ってくるはずだが、今限りは何の感覚すら帰ってこない。
だが麻痺した五感の中でも辛うじて、背中に軽い重みが加わっていることには気付く。
首を巡らそうとして、ギチリと止まる。
胃が、仮想の胃が、不気味に痙攣する。
「…………ぅぐッ。……ッか…ァ!」
数回えずいたあと改めて背後を見ると、だらんと肩からブラ下がる細い腕が一本。くーくーと可愛らしい寝息を立てる真っ白な少女の寝顔が、眼前にあった。
「…………」
その、うっすらと桜色に染まる頬にかかる一房の純白の髪を払ってやりながら、カグラは微笑む。
地獄のような微笑を、浮かべる。
夢だったのだろうか、というのが最初に浮かべた
現実逃避
(
しこう
)
であった。
だが、浮かべた端からさっさと否定する。
悪夢によって寝汗をかくというのはよく聞く話だが、しかしそれは人間の話であってカグラにはそもそも汗腺が存在していない。感情モーションの一環で冷や汗を掻くこともあるっちゃあるのだが、しかしここまでの発汗量は生まれてこの方始めて視認した。
こんな現象が、夢などというあやふやなもので発現するとはとてもではないが思えない。
「……マイ、着きましたよ」
「…………ん、ふにゅ。……あと五分」
奇怪な寝言とともに放たれた返事にもう一度、今度は心の底からの笑みを口元に浮かべながら、カグラはよいしょと立ち上がった。多少足がふらつく感はあるが、どうにか歩くのには問題なさそうだ。
しかし立ち上がったはいいが、その場に留まったままでカグラはしばらく静止した。時間が停止したように、瞬きすらもせずに。
秒針が二回ほど回った後、唐突にカグラは左手の人差し指を先を真下に振る。
目線は現れたメニューウインドウに向いてはいるが、しかしその目は何も映してはいない。何かに、糸にでも操られているかのように、機械のような正確さをもって画面をタップし、アイテムウインドウの中の《ソレ》を取り出す。
そう、アスナの手を借りて作ったガトーショコラの、最後の一片を。
「………………………………」
その、焦げ茶色の上に粉砂糖で化粧が施された塊を、永遠にも思えた数十秒をかけて眺め、そして――――
喰った。
甘さと苦さがミックスされたほろ苦さは、ほんの少しだけしょっぱかった。
[8]
前話
[9]
前
最初
[1]
後書き
[2]
次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]
違反報告を行う
[6]
しおりを挿む
しおりを解除
[7]
小説案内ページ
[0]
目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約
/
プライバシーポリシー
利用マニュアル
/
ヘルプ
/
ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ