1話
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正面の壁が、ぐにゃりと曲がった。士郎が酔っている訳でも、光の加減でそう見えたわけでも無い。本当に、物理的に空間をねじ曲げられた。それを成しているのは、桁違いに莫大な魔力の渦。そう、ただ魔力なのだ。本来指向性を持たないはずの、無軌道なそれ。そんなものが、空間に怪奇現象を起こすほど、高密度になっている。
魔術回路の痛みは、結界内の異変だけが原因では無かった。未だ増え続ける圧縮魔力が、魔術回路から逆流してきている。
「士郎君!」
「どうしたのですか!?」
異常を察知した二人が、扉をたたき割るような勢いで進入してくる。そして、殆ど同時に、魔力の風に追いやられ、壁際へと後退する。
「これは何事ですか!」
「分からない! 本当にいきなり、こうなったんだ! それいよりバゼット、これを家の中だけで閉じるから協力してくれ! セイバーは俺から可能な限り魔力を吸い上げて!」
「分かりました!」
「了解です」
魔力とは、つまり星の生命力だ。どこにでもあるが、どこでも『濃い』という訳ではない。自然界であり得ないほどの超高密度魔力が、人体にかなりのダメージを与えるだろう。
新たに四本、結界楔用のナイフを投影し、二本をバゼットに渡す。彼女は自分の血でルーンを刻み、呪文を唱えた。士郎が基礎となる、とにかく堅牢で内を外に漏らさない結界を張り、バゼットが補強する。隠密性も何もかもを度外視した、とにかく頑丈なだけの結界だ。しかし、これならば聖杯クラスの魔力でも無い限り、受け止められる。
膨大な魔力が外から内へ、内から外へと循環する。矛盾する充足感と喪失感の連続。経験に無い魔力の流転に、体の感覚がおかしくなりそうだ。
あと少しで、結界を張り終える、その時だ。びしり、と、空間が割れたのは。
士郎とバゼットの顔が盛大に引きつる。結界を張るのに集中するか、それもと空間を割った何かに備えるのか。どちらかだけでも、限界に近いと言うのに。
「二人とも後ろに!」
二人が地を蹴ったのは、ほぼ同時だった。魔術を保持したまま、身を躍らせるセイバーの後ろに飛び退く。彼女の手には、不可視の何か。それが揺らいで、内側に隠された黄金の剣を覗かせている。
「――ぉぉぉおおおお! 風王結界!」
声――つまり、真名の解放――により、風は剣を解放。輝く剣をこの世に表すと同時に、剣を中心にした傘状の風壁が作られた。
空間の亀裂は限界を迎えて、風景が一瞬大きく撓む。
「伏せて!」
それは、誰の声だっただろうか。少なくとも士郎は言っていない。もしかしたら、心の中の悲鳴が、そういう幻聴に変換させたのかも知れない。つまりは、そう思わせるくらい、疑いようのない言葉だったという事だ。
後の空間の変化は見ていない。ただ、冗談のような爆発が、大し
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