1話
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真剣な表情で言うバゼットに、口元を引きつらせる士郎。時計塔から出たと言っても、やはり魔術師なのだ。その彼女の前で「研究なんてしないから大丈夫」などと口が裂けても言えない。
士郎にとって、魔術は研究するものではなく、訓練するものだ。それだけなら、工房はなくても事足りてしまうのだ。
「っと、今結界を張るから、何かするならその後に頼む」
二人に言い残して、士郎は一番小さな部屋に入った。四歩で奥までたどり着ける、石畳で囲まれた部屋。二歩前に進み――つまり部屋の中心に立って、それを唱えた。
「――投影、開始」
自分だけでも、世界だけでもない。全てに真摯に、もしくは不義理に、その言葉を届ける。魔術という軌跡を具現するための、調和の言葉。僅かな発光と共に魔術回路は動きを止め、手には四本のナイフ。それを、部屋の四隅に刺した。
衛宮士郎には、いくつか得意な魔術がある。筆頭としては、己の魔術属性――魔術の枠を超えた軌跡の写し身を取り出す、投影魔術。もっとも、これは得意すぎて、おいそれと利用できないのであるが。
次に強化、結界と続き、少し劣って火(正確に言えば熱)と鋼と変化がある。これには、士郎なりに予測を立てていた。
繰り返すが、彼の魔術属性は剣。そして、どちらかと言えば作り手だ。鍛冶の工程に関係あるものが、得意魔術になる。こじつけのようだが、実際そうだったのだ。その中でも強化が頭一つ出ているのは、鍛える工程が一番多いからだろう。
結界が得意なのは意外であったが、考えてみるとそうおかしくも無かった。投影魔術が固有結界の中身からこぼれ落ちたのなら、結界は固有結界そのものの劣化品なのだ。世界を作り上げるほどの、隔絶結界。それの劣化品ともなれば、やはり常識を逸した性能になるのだ。ましてや、優れた魔術具の投影品と組み合わせれば――一流の結界術士すらうなるほどのものが組み上がる。
「結界展開、開始」
呪文と同時に、部屋から不可視の力場が家全体に広がった。遠坂凛監修の元に構築された結界術式は、並の術士では気付くことできない。
つまり、考え得る限り最高の結界なのだ。破られる事などありえない。ましてや、結界に発見されず、内部に直接干渉するなど、あるはずが無い。あるはずの無いことが、しかし、今、目の前で起きている。
全身に激痛が走る。痛みを訴えたのは、魔術回路だった。
「っ――ぁ……!」
喉から、絞り出すような悲鳴。体が痙攣を繰り返す、それでもなんとか、倒れ伏すのだけは耐えた。倒れてしまえば、次の行動に繋げられない。体を丸めて、しかし目だけは前に向ける。
そこには、異常があった。陳腐で漠然とした言い方だが、そうとしか言いようがない。あり得るはずが無い現象。説明のつかない事象。だからこそ、ただの異常。
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