1話
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呼ばれて振り向くバゼット。表情はとても不思議そうだった。
「聞かれたことに答えただけですが?」
「でしょうね」
「だろうな」
「何ですか、二人してその反応は」
む、と口を曲げるバゼット。それを確認し、からかうのはやめた。
口より先に体が動く彼女の場合、からかい続けるのは危険である。ただでさえ、低すぎて見えない沸点、と言うか我慢点。一度限界を超えれば、飛んでくるのは鉄骨を真っ二つにする鉄拳だ。からかうのも命がけである。
「と、そうでした。士郎君」
短気だが、同時に切り替えが早いのも彼女の特徴であり。表情を直した彼女は、おもむろにワイシャツの内側に指を差し込んだ。慌てて視線をそらす士郎。
「何をしているのです?」
「いや……バゼットがいきなり、服の中に手を入れるもんだから……」
「入れましたが、それが?」
分からない、というよりは、どうでもいいという口調。気にする方がばかばかしいのだろう。しかし、そのまま見ていた場合、セイバーの目つぶしで地面を愛する事になる。
「これの効力は恐ろしいほどでした。まさか、魔力の痕跡を完全に消せるとは」
「ああ、そうだろ」
バゼットの手に乗っているのは、ネックレスだ。もっと細かく言えば、細い鎖につながれた小さな装飾剣。士郎も全く同じものを持っている。魔道師に気付かれなかったのも、これが原因だ。
「けど、あんまり外に出さないでくれよ。見つかったらやばいからな」
「当然心得ています。執行者でもあった私が、これの危険を理解していない訳がない」
「そこら辺は信頼してるよ。魔術師としての腕前は、俺より全然上だし」
こんなもの、所持しているだけでも、封印指定の疑いかかかりかねない危険物。しかし、そのリスクを負ってでも持っていなければならない理由が、二人にはあった。
バゼットは、左手の義手を隠さねばならない。それは高密度エーテル塊であり、同時に世界最高の呪物でもある。はっきり言ってしまえば、とても危険なのだ。どこかに知られてしまえば――目的はどうであれ――色んな組織が、こぞってバゼットを殺しにかかる。そう断言できる程度には。
士郎は、己の投影魔術、および固有結界を隠さねばならない。固有結界はまず知られる事は無いだろうが、投影はそうはいかない。投影物はなるべく持たないように、代用品を集めはしているのだが。仕事柄、秤に乗せるのが命である以上、どうしても頼らなければならない部分がある。
理由は違えど、他者に知られてはいけない魔術的要因がある。影響を完全遮断する『宝具級』の道具の存在は、不可欠だった。
危険を隠すために、さらに危険物に頼るというのは、なんとも皮肉だ。
バゼットが、服の中にネックレスをしまい直す。家についたのは、それとほぼ同時だった
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