第五話「士織ちゃんの受難」
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?」
「あ、イイよん──」
「お前は黙ってろ。ややこしくなる」
琴里の問い掛けに答えようとしたのは白衣の女性だったが、それをもう一方の女性が止める。口を膨らまして不満を示した女性だったが「正座を解いてよし」と言われると、素直にそれに従った。
「なんで士道を攫おうとしたのかしら?」
やはり、と士道は頭の中で呟く。そこばかりはちきんと説明してもらわなければ、この場にいる士道たちも、この一連の事態を見ているフラクシナスの職員たち全員も納得しないだろう。
「ああ、それ?それはね」
「お前は黙ってろって言っただろ」
「えー。私がやったことだよ?霙ちゃん、理由分かるの?」
「お前の考えなんて手に取るように分かるわ」
再度のため息をつきながら女性は頭を掻く。
ものすごい美人である。出るところは出て、しまるところはしまっているモデルも羨みそうなモデル体型は令音を彷彿とさせるが、こっちはもっと「できる女性」という感じを匂わせていた。雰囲気からして、さぞ部下に慕われ上司なのだろう。
と、見惚れていることに気づいて慌てる士道。女性と一緒に旅行してるのに他の女性に見惚れるだなんて失礼にもほどがある。周りを見渡すが、誰も士道が女性に見惚れていたことには気づいてないらしい。とりあえず息を吐く。
「お前、今から始まるイベントの特別枠を探していたんだろう。大方私がいい奴がいないか、と言っていたのを盗み聞きしていたのだろう。で、その枠に良さそうな少年を求めて徘徊していた……違うか?」
「おお!流石霙ちゃん!あったりー!」
「はぁ……ステージ周辺に徘徊する怪しい女性がいるとお客様の方から目撃情報が来たから慌てて総司を急行させたが……予感が的中するとはな」
どうやら、士道を攫おうとした女性は今から行われるイベントに士道を参加させたかったらしい。それなら口頭できちんと理由を話せばいいのに……。と一行の誰もが思っただろう。
「それなら何故士道を攫おうなどとした?しかも私まで」
「あ、それはね──」
「姉さーん」
まるで女性の話を遮るように備品室に入る人物がいた。見れば先ほどこの女性を取り押さえた少年が扉を開け、中に入ってきた。
超人的な身体能力を見せたこの少年──キャストチーフの女性の話によると学生のアルバイトで、能力者らしい。なるほど、学園都市の能力者なら先ほどの跳躍も納得できるだろう。士道たちはその説明に、なんの疑問も抱いていなかった。
──しかし一人だけ、妙な不安を頂いている人物がいた。本人もあまりに小さな違和感を気づいてない、が。
それに気づかないことが後にどう影響するのか──この時点では誰も知らない。
「もうイベント始まりますよ」
「──ああ。そうだったな」
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