暁 〜小説投稿サイト〜
乱世の確率事象改変
道化師が笑う終端
[6/26]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
べて、俺は彼女を嘲笑った。

「油断? これは余裕ってもんだ。お前じゃ俺に勝てないよ、文醜」

 普通なら怒りに染まりそうな挑発も、子供のようにキラキラと瞳を輝かせる彼女には効かないらしい。
 こうやっていきがる奴等を真正面からぶっ潰してきたんだろう。それがきっと彼女の在り方で、彼女の生き方。

「じゃあさ、あんたのその余裕、ぶっ壊させて……貰おうか!」

 蹴る脚は大地を抉り、大きく駆けること二歩三歩。文醜の大剣が唸りを上げて袈裟に振られた。
 戦いの経験は積んできた。俺があいつと……魏武の大剣とどれだけ戦ってきたと思ってやがる。
 純粋な力を信頼しての一撃は重い。真正面から受け止めようものなら叩き伏せられもするだろう。だが如何せん、あいつよりも僅かに遅い。その剣速では足りえない。
 つい……と添えるように剣の腹を敵の刃が描く軌道上に添え、左腕で方向をぶれさせるように受け流すだけ。ずらせばただの大振りになるのは必然で、隙が出来るのも当然。
 予備動作での追撃は文醜の一撃の殺しきれなかった余力に耐えきれず潰されて行えない。なら、膝を抜き、力を流し、大地を迎え入れるように頭を垂れ、抜け出るだけにしておこう。
 一重の交差は互いの力量を確かめる手段に過ぎない。
 振り向き、恍惚といった様子で震えている文醜は、自分の渾身の一撃が馬の上よりも容易に躱された事に驚愕していた。

「へへっ、行くぜおい!」

 それでも、と。彼女は自分の力を信じて真正面から突っ込んでくる。
 逆袈裟の一撃は屈んで避けて、踏ん張った両足の力をそのまま使い、柄での反撃に転じた。懐に潜り込んだ俺に驚愕せず、彼女は見切っていたというように膝を上げて受け止める。
 次に行うは拳での突き上げ……しかし、両手で振っていたのにいつの間にか開けていた片手で受け止められた。
 若干、彼女の身体が浮く。体重移動ギリギリで体当たりを行うと、彼女が一歩分だけ下がった。
 それでも彼女の笑みは崩れない。無理やり振ってきたような大剣の片手振りが襲い来た。
 寝かせた刃で受け止めると……派手な金属音と共に俺の身体が僅かに浮いた。

「オラァッ!」

 そのまま力任せにもう一方の手を添えて振り切られ、俺もその力を利用して後ろに下がる。

――バカ力過ぎるだろ。

 元譲並、いや、今はそれ以上かもしれない。本来の自分以上の力が出ているに違いない。誰かの為に強く為れるってのはどこぞの霊界探偵みたいだな、と呑気な感想が頭に浮かんだ。
 人間ってのは無意識でリミッターを掛けているらしいから、何かのスイッチでそうなる事もあるんだろう。この世界の元譲みたいな女達が俺の世界の常識で測れるかと言われれば否だが。

「そっちから来ないのか?」
「じゃあ、次はこっちから
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ