道化師が笑う終端
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えるのも事実。月光には悪いが地上戦の方が得意だ。文醜を見やると、不思議そうな顔で月光を見つめていた。
「全力で……って言ったな? お望み通り全力で行こうか」
――自分の馬に落とされるなんて……かっこ悪いだろうなぁ、俺。
せめて、と虚勢を張ってみたモノの、後ろで明の笑う声が聴こえた。素直に無様だと笑ってくれるだけありがたい。
肩に担いだ長剣を水平に構えて取るのはいつもの構え。突撃と斬撃に転換しやすい刺突の型。左手を剣の腹に添えて文醜を見やる。
俺と目を合わせた文醜の表情がまた笑みに変わった。
「なんだかよく分かんないけど……馬の上よりこっちのが強いってか? ま、弱い黒麒麟を倒しても面白くないし、あたいとしても問題ないけどさ」
それでいい。お前みたいな奴は、真っ直ぐ真っ直ぐ戦いを楽しめ。
俺は別に楽しくないから、お前が楽しんでくれないと意味が無い。
お前みたいに戦いを楽しめたなら、綺麗事を並べることなく、好きな事をしていると胸を張って言って……ヒトゴロシに興じれただろう。
楽しくないよ。こんなモノ。剣戟の音を聞く度に嫌気が差す。殺気と闘気をぶつけられる度にうんざりする。与えられただけの力だから、自分の力に対する優越や達成感なんて、なぁんにもありゃしない。
楽進は強くなりたいと言った。守りたいから、と。きっとあの子やお前みたいに努力して強くなって守れたなら、満たされる心もあるんだろうに。
――黒麒麟なら、自分がしてきた行いに胸を張って……満たされる心もあったのかもしれないが。
渇いている。心が、脳髄が、空っぽの自分を満たしたいと叫んで荒れる。
明のように他人を重ねようなんて思わない。俺が重ねるのは俺自身。自分がなれるはずのその姿。なれないと分かっても追い掛けなければ……より黒く、黒く。
――救いたいんだ。救わせてくれ。一人でも多く。より多く。
救いたいと自分から願ったくせに、俺は救えなかった。
知っていたはずなのに、世界を捻じ曲げられなかった。
必要だったのに、求められたのに、求めたのに、助けられなかった。
黒麒麟は……捻じ曲げたのに。
――それでも諦めなんざしない。お前ならどうするよ黒麒麟? お前だって……この官渡を捻じ曲げたいと思うだろ?
だから俺は文醜と戦おう。黒麒麟を演じる道化師として。
こんな時、きっと“俺”なら笑うだろう。楽しそうな顔で笑って誤魔化すんだ。
「頼むから油断すんなよ? お前の力を見せてみろ」
「言うじゃんか。油断ならあんたのがしてると思うぜ?」
軽口を投げればにやりと笑って言い返して来る。
つくづく面白い奴だ。こういう奴をこそ……求めていた。
引き裂く口は三日月のカタチ。悪辣に思える笑みを浮か
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