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或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第十四話『猛獣使い』帰還せり
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内務省の実力者であった。
「今までならそれで済んだだろうがね。今の私は限りなく無責任に言えるからな。
何しろ、北領帰りの大将閣下達が予算・動員を言いたい放題だ、五将家と云えどもやりすぎたな、護州陪臣の官僚がこちらに情報を漏らしている」

「再反攻の件――ですな?」
黙って聞き役に回っていた豊長が云う。

「その通りだ、私は内務官僚であって軍人ではないから兵馬のことには口が出せん。
だが、軍人の言う――その、なんだ、兵站とやらを支えているものはよく理解しているつもりだ。
北領鎮台の動員数から比較するだけでもあの守原の言うことが実現したらどうなるかは分かりきっている」
 上品な鼈甲眼鏡越しにぎらり、と眼力を強め、弓月伯爵は静かな口調で云った。
「――破滅だよ。北領にどれほど軍を展開し続けるつもりだ?
それを養う穀物はどこから産み出す?兵達の賃金は?工廠を稼働させる金は?消耗した人員は?
御国は何時まで戦時体制を続けられるのか、怪しいものだよ。」
そこまで言うと首を振る。
「何をするにせよ、戦争というものは金と人が馬鹿馬鹿しくなるほどに必要だ。だいたいだな、守原は短期間で決着をつけるつもりだそうだが、奴はさっさと片付けられたばかりじゃないか、
身代を潰した阿呆に投資をしろ、なんてそこらの両替商なら尻を蹴っとばされて追い出されるような話だよ」
 諧謔を混ぜた物言いに馬堂の主である二人はくつくつと笑った。
「えぇ、其方の対応は軍部――保胤様や兵部省・軍監本部の反対派も動いています。
取り敢えずは我々がどうにか食い止める為に全力を注ぎます、必要であれば手を貸していただきますが」
「遠回しであれ、自殺する趣味は私にはないよ」
豊守の言葉に伯爵は笑みを浮かべてのらり、と応える。

「大殿様、若殿様、失礼いたします」
話が漸く切れたところを見計らい、老練の家令頭である辺里が来客を告げる。
 馬堂家の二人が眉をひそめるのを尻目に弓月伯は愉快そうに体を揺らす
「ふむ、北領の英雄殿か」
 豊守が張り詰めた表情でそれに応える。
「えぇ、彼は遅滞戦闘隊を直率した豊久と別れています、生死不明です。
まぁ主家の末弟殿ですからお目にかからなければならんでしょうが、あまり期待しない方が良いでしょうね」
息子の言葉に豊長もは頷くが、一層興味深そうに弓月伯が云った。
「豊長殿、私もここに居て宜しいですかな?」


午後第五刻半 皇都 馬堂家上屋敷
駒城家育預 新城家当主 新城直衛

 狩猟犬として有名な龍州犬を伴った屈強な男達が一間(1m)程の警杖を携え、油断なく来訪者――新城直衛をじろじろと眺めている。
 ――この屋敷もいつも通りか。
 憲兵上がりが大半を占めている警備班は事実上、馬堂家の私兵である。政界・財界へと根を
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