意味と狂人の伝説――収相におけるナエーズ――
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みを胸に、生首を抱きしめる。
「お兄ちゃんじゃない……」
靴底と石畳の間で砂を軋ませながら、誰かが背後に立つ。
「お前の兄はカルプセスで死んだ。こんな所に生首が投げこまれるはずがない」
ラプサーラは生首を抱く腕の力を緩めた。彼女は狂ってはいなかった。その恰好が狂気に見えても、狂ってはいない、まだ。
「ラプサーラ。何故、お前は占星符を捲る? 何を探している? 何の答えを求めている?」
「未来が見えないから」
手短に答えてから、背後に立つ中年の魔術師に続ける。
「かつて、世界は無数の相に分かたれた。その全てを俯瞰する神々に、世界は取りまとめられていた。……その神が消えた」
「消えただと」
「はい。占星符が示す神の不在は、世界の、少なくとも、無数の相に分かたれた現在の有り様の終焉を意味します。それより、教えて」
ラプサーラは抱きしめていた生首を地面に置き、振り向いた。
「本当の事を教えて、ミューモット。あなたは何者なの? 何をしに来たの?」
「お前を殺しに来た」
さも何でもないように、ミューモットは告げた。ラプサーラはただ反応に困り、跪いたまま、ミューモットの顔を見上げている。
「今から俺が言う事を、お前が信じる必要はない。狂人の戯言だとでも思って聞け」
呼吸一つ分の間を置く。
「俺はお前を殺した、リディウ。リディウと呼ばれていた頃のお前を」
「リディウ? 何の事?」
「前の世、お前は生まれた意味を果たす事がなかった。そうする事を俺が阻んだからだ、占星符の巫女。人の世から隠れし滅びの歌劇の役者。俺はそうして生きてきた。神が選びし役者を殺し、世界の余生を引き延ばす為に」
「歌劇――」
「『我らあてどなく死者の国を』。第一幕の上演によって水相を没落せしめ、未だ神々が第二幕の上演を心待ちにしている歌劇。知らぬはずはあるまい」
ラプサーラは青白い、どんよりした表情のままかぶりを振る。
「信じられない……」
「言ったはずだ、信じる必要はない」
ミューモットはラプサーラから視線を逸らし、腕組みし、解いた。
「……いずれ来る全ての相の収縮が世界のさだめであるなら、それに抗い役者たちを殺して回る自分の存在は、本来許されるべきではなかった。神々が、人間が信じるほど絶対的で、杓子定規な存在なら。だが、俺は生きた。生きる事ができた。どういう事かわかるか。俺が、人が、生きて何をしようとも、所詮は神の手の上で遊んでいるに過ぎないという事だ」
ラプサーラは何も考えずに頷く。
「それで、私を殺すの?」
「いいや」
「何故」
「何をして生きても同じなら、背負わされた運命を捨てる。もはや俺を見張る、遠い相、遠い時代のセルセト国の王族と魔術師達の目もない。俺はあまりにも遠くに来た。相を越え、時を越えて、実際に、自
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