外伝:色褪せぬ過去よ
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の事は、認識した全てがまるでさっきの事のように思い出せる――
それは辛いことだったかもしれないけど、同時にかけがえのないもの――
夢か何かと見間違えるほどに克明で、かえって疑ってしまいそうなほど――
それでもあの瞬間に込めた思いは、伝えた言葉はきっと――
あの二人と一緒に馬鹿をやっていた記憶は、今となっては少し辛い記憶だ。二人は既に俺の元を遠く離れ、今はたった一人で語り引きを繰り返すだけになってしまった。
でも、あの頃に一緒に笑いあったあの思い出だけは嘘偽らざる真実なのだ。
あの頃の自分やあいつらの笑顔を、俺は否定したくない。
例えそれが思い出すたびに胸を締め付ける物でも――それでも、あの瞬間は俺にとっての本物なんだ。
ごちゃごちゃになった頭の片隅でもいつも忘れない想いがある――
もう戻ってこないし、二度と伝わらないかもって分かっているけど――
それでもいい。それでも忘れない。それでも私は待っていたい――
だって、あの時私に微笑みかけてくれた貴方の顔は今でも――
鮮明で眩しいほどに、私の中であなたは生きているのだから――
曲を終えて、ひと息つく。我ながら、歌わないと自分が辛くなるというのだから女々しいものだ。他人に聞かせているようで、その実この曲は自分を励ます物でしかない。
だが、それでも――そう考えてる自分に苦笑しそうになりながら、俺はギターを弾く手を止めて女性の方を向いた。
「そこのお姉さん。俺の歌はまだ必要か?」
「………いいえ、もう十分」
あの暗い影を落としていた女性は、どこか憑き物が落ちた様な顔で小さく微笑み、その場を後にしていった。強い人だ。しょっちゅう歌で自分を鼓舞する俺なんかよりもずっと強い人だったんだろう。
彼女はもう俺の歌を聞きに来ないかもしれない。でも、きっとそれでいいのだ。
心細くなった時、弱気になった時、辛いことがあった時――そういう時に聞ける曲が、俺は大好きだから。だから、俺はそういう存在でいい。時々心に余裕がなくなった時に駆けこむ場所でいい。
周囲の客に「ナンパに失敗した」だのと不名誉なことを言われながらも、俺は女性を見送った。
= =
一緒にこのゲームをクリアしようと誓い合った仲だった。
出会ったきっかけなど、もう些細なことでしかない。ただ彼の隣にいて、彼をサポートし、サポートされながら持ちつ持たれつでこのゲームの道なき道を切り開いてきた。肉体関係も持っていた、最高の相棒で恋人だった。
でも、どれほど深く想っていても、死と言う最期は平等に訪れる。
彼は、戦いの中で勇敢に散った。名前も知らない、その日にたまたま出会っただけのプレイヤーを守るために、彼は散った。彼らしいと言えば、ら
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