外伝:色褪せぬ過去よ
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剣を振るう。突く。薙ぐ。抉るようにソードスキルで切り裂く。
視界に入った敵を出鱈目に斬って、斬って、斬り続けて。
右を切ったら左を斬り、左を斬ったら後ろも斬る。後ろにいなければ獲物を探してフィールドを駆ける。獲物を追う猟犬のように、ただそれだけを追求する。
効率も洗練もあったものではない粗雑な戦い方こそが、今の自分の心をそのままに反映している。
爆発した感情の治め方を知らずに、八つ当たりのように敵と呼ばれる存在を斬り飛ばした。それでもなお胸の奥にこびり付く、爛れるような疼きが消えて無くならない。それが余計にもどかしくて、更に力任せに剣を振るい続けた。
やがて、周囲の敵が枯渇するほどに戦い続けた私は――ひどくぼやけた曇天を見上げる。
空の光を遮る濁った灰色の下には、激しく呼吸を乱す自分だけ。静かな森の中に、荒い息だけが響いた。
晴れない空は雨を伴い、ぽたぽたと足元の草に雨粒が触れる。その滴の一つが、頬を伝った。
「……やっぱり、駄目なんだ」
忘れたい笑顔があった。
忘れたい出来事があった。
忘れたい現実を目の当たりにした。
だから、忘れようとした。纏わりつく茨を振り払おうともがいた。
でも何時間の時を暴れても、何日の夜を越えても、気が付いたらその思い出を手放せないままで。
だからいつもいつもこうして憂さを晴らすように暴れ続けている。
本当は分かっているのだ。こんなものはただ悪戯に疲労を溜めるだけなのだと。さっさと過去に区切りを付けて未来に目を向け、建設的に生きた方がいいのだと。
それでも――忘れられないから。
「忘れたい……あの人の事も、何もかも。全てを忘れて生きられるなら……」
何をやれば忘れられるのだろうか。
美味しい食べ物をたくさん食べたら忘れられる?
新しい仲間と交友を深めれば溝は埋まる?
それとも新たな出会いがいつか忘れさせてくれる?
いつになるかも分からない願望が頭の隅に浮かんでは消える。もう自分がどうすべきなのかも分からなくなるほどに沈んだ心は、答えを導き出せるのかさえも分からない。
ふと、町で誰かが口ずさんだ歌を思い出す。
何もかも思い通りにならない人生の中で未来を掴もうとする、このデスゲームの応援歌。
そんな歌ならば、この思い出を忘れさせてくれるのだろうか。
剣を仕舞い、町へと足を進める。
もう心は疲れ切っていた。重しとなって圧し掛かる過去という名の荷を、誰でもいいから忘れさせてほしかった。ただそれだけを願って、私はその歌を聞きに行った。
= =
随分久しぶりにこの手の客が来たな、と俺はギターをかき鳴らしながら思う。
ふらりとやってきた女性。おそらくは既に成人しているだろう。装備や身なりは整っている所を見るとそれ
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