暁 〜小説投稿サイト〜
私立アインクラッド学園
第二部 文化祭
第58話
[1/3]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話
「や〜……やっぱり屋上で食べるサンドイッチは格別だね。見渡しもいいし、2人きりになれるし……ちょっぴり肌寒いのが難点だけど、来れるならいつだって来たいなあ」

 ふふ、と可憐な笑みを浮かべる恋人を他所に、俺はあのホールでのことを考えていた。
 あれから2週間。文化祭以来、まりあは学校に来ていない。寮でもなかなか姿が見当たらないと、アスナが言っていた。

「……りとくん。キリトくんてば」

 ツンツンと頬をつつかれ、ようやく我に返る。

「……まりちゃんのこと、考えてたの?」

 俺が無言になったところを見ると、アスナは「図星ね」、と言って、俺にデコピンを喰らわせた。結構普通に痛い。

「他のこと考えるの禁止条約、また破ってる。……でも、まりちゃんのことはちょっと、ていうか物凄く心配だよね。寮で見掛ける回数も、日に日に少なくなってきてる。昨日なんて、1度だって見掛けなかったわよ」

 あれを条約と呼んでいいのか否かはさておき、俺の心情をいち早く読み取ったらしいアスナは、一瞬だけ寂しそうな苦笑を浮かべた。
 アスナが俺にこういった表情を1秒以上向けることは、ほぼないと言っていい。大方俺に心配を掛させまいとしているのだろうが、少しは頼ってほしいとも思う。その反面、彼女の健気さに思わず頬を緩めてしまう自分がいるのだが。
 アスナはいつもの明るい笑顔を見せた。向日葵とも薔薇とも違う、言うなれば上品なマーガレットや可愛らしいコスモスのような笑顔。

「くよくよしてたって仕方ないよね。まりちゃんにはまりちゃんの生活があるんだし、きっと忙しいのよ。文化祭でもいっぱい時間貰っちゃったしねー」

 違うよ、アスナ。
 きっと、俺が原因なんだ。まりあは、俺と顔を合わせて以来学校に来なくなった。だからきっと、俺の──

 ──ぱしんっ。

 瞬間、目の前が弾けた。
 左頬が熱い。正面にはアスナが立っている。いつもは落ち着いているはしばみ色の瞳は、何かを訴えるように色濃く揺れていて、雪のように透き通った色をしているはずの彼女の右手は、打ち付けたように赤く色づいていた。
 アスナは俺に、思いっきり平手打ちをお見舞いしたのだ。俺はそれを、自分の左頬を押さえながらようやく理解した。

「……そんな顔、しないでよ」

 荒い息遣いで発せられるその声は、複雑な感情をそのまま(はら)ませたかのように震えている。

「……わたし、キリトくんには笑っててほしい。だからわたしは、つらくてもそれを顔に出さないようにずっとずっと頑張ってきた。そうすることで、君が笑ってくれるなら……って、そう思ったの。でも……何で? どうしてそんなに、全ての責任を1人で背負ったみたいな顔するのよ。君が、まりちゃんに何かしたの? 覚えがあるの?」

 
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ