第二部 文化祭
第58話
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「や〜……やっぱり屋上で食べるサンドイッチは格別だね。見渡しもいいし、2人きりになれるし……ちょっぴり肌寒いのが難点だけど、来れるならいつだって来たいなあ」
ふふ、と可憐な笑みを浮かべる恋人を他所に、俺はあのホールでのことを考えていた。
あれから2週間。文化祭以来、まりあは学校に来ていない。寮でもなかなか姿が見当たらないと、アスナが言っていた。
「……りとくん。キリトくんてば」
ツンツンと頬をつつかれ、ようやく我に返る。
「……まりちゃんのこと、考えてたの?」
俺が無言になったところを見ると、アスナは「図星ね」、と言って、俺にデコピンを喰らわせた。結構普通に痛い。
「他のこと考えるの禁止条約、また破ってる。……でも、まりちゃんのことはちょっと、ていうか物凄く心配だよね。寮で見掛ける回数も、日に日に少なくなってきてる。昨日なんて、1度だって見掛けなかったわよ」
あれを条約と呼んでいいのか否かはさておき、俺の心情をいち早く読み取ったらしいアスナは、一瞬だけ寂しそうな苦笑を浮かべた。
アスナが俺にこういった表情を1秒以上向けることは、ほぼないと言っていい。大方俺に心配を掛させまいとしているのだろうが、少しは頼ってほしいとも思う。その反面、彼女の健気さに思わず頬を緩めてしまう自分がいるのだが。
アスナはいつもの明るい笑顔を見せた。向日葵とも薔薇とも違う、言うなれば上品なマーガレットや可愛らしいコスモスのような笑顔。
「くよくよしてたって仕方ないよね。まりちゃんにはまりちゃんの生活があるんだし、きっと忙しいのよ。文化祭でもいっぱい時間貰っちゃったしねー」
違うよ、アスナ。
きっと、俺が原因なんだ。まりあは、俺と顔を合わせて以来学校に来なくなった。だからきっと、俺の──
──ぱしんっ。
瞬間、目の前が弾けた。
左頬が熱い。正面にはアスナが立っている。いつもは落ち着いているはしばみ色の瞳は、何かを訴えるように色濃く揺れていて、雪のように透き通った色をしているはずの彼女の右手は、打ち付けたように赤く色づいていた。
アスナは俺に、思いっきり平手打ちをお見舞いしたのだ。俺はそれを、自分の左頬を押さえながらようやく理解した。
「……そんな顔、しないでよ」
荒い息遣いで発せられるその声は、複雑な感情をそのまま孕ませたかのように震えている。
「……わたし、キリトくんには笑っててほしい。だからわたしは、つらくてもそれを顔に出さないようにずっとずっと頑張ってきた。そうすることで、君が笑ってくれるなら……って、そう思ったの。でも……何で? どうしてそんなに、全ての責任を1人で背負ったみたいな顔するのよ。君が、まりちゃんに何かしたの? 覚えがあるの?」
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