会見
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れは単なる殺人になるでしょう。一人殺せば殺人者だが、一万人殺せば英雄───という言葉があったそうです。遥か宇宙暦以前だそうですが。平常時であれば殺人行為になることも、状況次第ではそうではなく、それは今日でも同様だと私は考えております」
「人を殺して許されるのには時と場合がある、と言うのか。卿もそう言うのか」
ラインハルトの端整な顔が苦しげなものへと変わる。右手が胸元を弄っていることにヤンは気づいた。そこに何があるのか、ヤンの位置からはわからない。
「卿までもが私の罪は一生許されぬと言うのか」
自分を撃てと言った時のラインハルトには鬼気迫るものがあった。並外れて美貌の主である故、それはより際立ってもいた。
それと比べると今の表情は苦悶が強く浮き出て、十歳も歳を取ったようにも見える。
ラインハルトの右手は強く銀のペンダントを握り締めていた。それが彼自身の痛む心であるかのように、陶器を思わせる白く形のいい指は細かく震えた。
リップシュタット戦役の際、二〇〇万の住民の命が無碍に奪われることを知りながら、ラインハルトはそれを止めもせず、その残酷な絵図を撮影させた。あの映像がなくともラインハルトは勝利しただろう。
ブラウンシュヴァイク公爵が自分の領地の民衆を惨殺しようとした、その事実を公にすればよかったのだ。二〇〇万もの人民の命を奪う必要性はなかった。もうしばらく勝利に時間がかかろうとも、失われた大地と生命とは比べようもない。
あの時、オーベルシュタインの言うことなど無視すれば、側にいたのがキルヒアイスだったら───
ヴェスターラントの住民を見殺しにすることがなければ、今も傍らには彼がいたはずだった。ヤン・ウェンリーなどではなく。
惨劇を防がなかった後も機会がないわけではなかった。一言、キルヒアイスに詫びればよかったのはわかっていたが、それができなかった。
そしてその機会は永久に失われた。かけがえのない己の半身と共に。
そのことだけでも十二分に自分は罰せられている。にもかかわらず、どうしてこんな男に今更言われなければならないのだ。
次第に怒りにも似た、ヤンにとっては理不尽な感情が剥き出しにされる。
「卿に私の気持ちがわかると言うのか」
ヤンにはリップシュタット戦役の時の内情などわかるはずもない。ラインハルトを責めているつもりもなかった。子供のような彼の心の動きがどうして理解できよう。
室内を満たすラインハルトの感情が沸点に達する寸前、ついと手が伸び、何かスイッチのようなものを押した。二秒と立たないうちに、失礼します、とミュラーが入ってくる。いつでも呼べるように隣室に待たせていたことは明白だった。
「酒宴は終わった。ヤン提督をお送りしろ」
「はい、かしこまりました」
短いやり取りには、ヤンに一言も言わせ
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