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会見
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「あそこにあるが、つまり今私は丸腰だ」
「か、閣下、私も丸腰です」
「武器の所在は今教えた。引きだしに鍵はかかっていない」
 自分の胸を撃て、というように手を当てラインハルトは続ける。
「いいチャンスだとは思わぬか?」
「ですが、私は射撃が下手で……士官学校時代の成績は酷いものでした」
「この距離だぞ」
 つまらない言い訳だと自分でも思ったヤンは絶句した。
「そこまで自信がないのなら、私の胸に銃口をつけてから引き金を引けば外れることもない」
 ラインハルトの声はさらに大きく高くなっていく。普段のラインハルトの様子などヤンに知る由もないが、ここまで声高になることがあるだろうか。
「卿達は私の旗艦を狙ってきたであろう? 絶好の機会ではないか。銀河は卿のものだ」
「ですが閣下、私は銀河を欲しているわけではないのです」
 ようやく発した静かな一言が、室内を満たしていた狂気にも似た熱を冷ました。
 ヤンと額を突き合わせんばかりの距離にいたラインハルトが身体を引き、まだその瞳は熱病患者のような光を帯びてはいたが、ソファに腰を下ろす。
「確かに閣下を倒そうとしてきたのは事実ですが、それは閣下のお命そのものを欲していたわけではありません」
「ほお、卿は面白いことを言う。ではあの時、ハイネセンから停戦命令が下されなければどうしていた? 旗艦ごと私の命を奪ったのではないか?」
「はい」
 ヤンは正面を向いたまま答えた。
「その通りです。あの時閣下の死を願いました。それが唯一の勝利の道でしたから。どれほど不利な状況に陥ろうとも、閣下さえ」
 そこで言葉を止め、右手の指先を銃口に見立ててラインハルトに向ける。
「ただしあの時限りです」
 静かに言いながらヤンは、それに左手を被せてゆっくりと降ろした。
「私が閣下だけでなく、このブリュンヒルトの乗員を一緒に宇宙の塵にしてしまっても罪になることもないですし、失礼ながら言わせていただければ、閣下という希有な存在を抹殺してしまうことを遺憾に思い、また恐れる気持ちもありましたが、戦時下であればやむを得ません。あの時、もしもハイネセンからの停戦命令がなければ、私は間違いなく攻撃命令を下していました。こうして閣下とお目にかかることもなかったはずです」
 今気づいたかのように倒したままだったグラスを起こす。
「もちろん一緒にワインを飲むことも」
 今度はラインハルトが黙り込む番だった。
「敵味方含めて私は多くの人命を奪ったのに、それを罪に問われることもなく、逆に昇進を繰り返して参りました。勝っている間は英雄だのと煽てられて。私はたまに恐ろしくなります。自分が殺めた人間のことを考えると……夜中にふと目を覚ました時など、それを思うと眠れなくなることもあります。もしも今、私が閣下を手に掛けたら、そ
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